第526話 星宮製

「……あー、それってもしかして例のやつかな」


 慎と試験について話していると、樹がそう言って話に参加してきた。

 今日も性別不詳な彼?彼女?で、服装からも判別できない。

 そんな樹に俺は尋ねる。


「あれって? 何か知ってるのか?」


「うん、僕って星宮の人間でしょう。だからね」


 星宮。

 迷宮関係の装備や魔道具など様々な製品を扱っている巨大企業をいくつも率いる財閥だ。

 樹はその継子であるため、表に出てこない色々な情報を持っている。

 家族とも少し前までだいぶ仲が悪かったようだが、今は相当改善しているらしい。

 それでも家には戻らずに、うちにずっといるわけで完全に何もかも解消したわけではないのだろうが……。


「あれって星宮製だったのか」


「国から依頼されて作っている品の一つだね。ステータスを参照して扱う技術なんだけど、色々な応用をしていくことが期待されているんだ」


「たとえば?」


「単純にステータスを参照して、向いてる職業とかを判別したりね。あぁ、この場合の職業ってあれだよ。冒険者としての、じゃなくて、普通のやつね。料理人とか大工さんとか」


「一般人にステータスは……」


「《ステータスプレート》は持たないけど、実は数値そのものはあるみたいでね。それを読み取れるようにする技術が開発されてるんだよ。で、ステータスの数値って、結局のところその人間の能力値だから、見られるなら色々と使い所があってね……たとえば創だったら、器用が高いからなんでもできちゃうわけでしょう?」


「なんでもってわけじゃないけどな」


「でも折り紙を折れば訳のわからないくらい複雑な形でも作れるし、今までやったことがないような刺繍だって見ればできちゃったりするでしょ」


「それは確かに」


「つまり、そういう才能がステータスを参照すればわかる訳だ。だから使えるなら使ったほうがいい。もちろん、差別とか色々起こる可能性があるから、慎重にならないといけない部分は多いけど、あるものはあるんだから使ったほうがいい」


「割り切るしかないところか」


「そういうこと。それに、創みたいな極端なことにはならないっぽいんだよね、普通」


「っていうと?」


「創は器用の数値が高いから何でもかんでも出来ちゃうけど、器用の数値って、実はタップするともっと細かく表示できるでしょ? 他の項目にしても全部そうだけど」


「あぁ、それはそうだな。意味がわからないけど」


「その意味わからない部分を研究して、何を示してるかを解析してるんだよ。たとえば、手指の器用さとか、舌の敏感さとか、そういう諸々についての数値とかも色々あるっぽくてね……」


「そういうのをうまく理解すれば、そいつの向いてる職業とかわかるってことか」


「そうそう。まぁ絶対じゃないけど、今の能力だとそれが向いてますよ、くらいは言えるってこと」


「なるほどなぁ……その技術が、この間の試験で使われた?」


「と、思うよ。僕も前にちょろっと聞いたくらいだけど、創の話を聞くに、ステータス参照して、適切な難易度になるように調整した魔物を課題にする、みたいな機能だったんだと思うね」


「その割にはひどい難易度だったぞ」


「どっちかというと創が悪いんじゃない? あまりにもピーキーなステータスしてるから、開発者の想定外の結果になってしまったんだと思うよ。新開発のものだから、そういう誤作動みたいなのはどうしようもないところあるよね……」


「試験でそんなの使うなよ……」


「使っても大丈夫だろう、というくらいのチェックはしたと思うんだけどね。器用や精神力数千やら万やらなんてのはね、誰も想定しないよ……」

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