第527話 概要

「俺の数値はバグってか」


 俺がそう呟くと、樹は、


「まぁねぇ……正直バグみたいな数字じゃない?」


 そう言って微笑む。

 まぁ確かに、そう言われるとな。

 俺だって自分の数値だから問題ないと言えるだけで、他の誰かの、たとえば腕力とかが一万とか超えてたら化け物扱いしてしまうだろうしな。

 頷くしかない。


「仕方ない話か……それにしても、俺以外は問題なかったのかな? ステータス低い場合には弱い魔物が選ばれるってことか?」


「いや、そういうことじゃないよ。そもそも、試験のエリアは限られていたわけでしょ?」


「迷宮の第三、四エリアだったな」


「ってことは、出てくる魔物の強さは基本的に大して変わらないよ。じゃあどういう振り分けをしていたのかって、おそらくは腕力が50で器用が30の人と、腕力が30で器用が50の人がいたとして、硬い魔物を倒せって言われたら前者の方が有利でしょう。でも能力の総合値は変わらないわけで、だとしたら両方とも数字上は同格の実力なわけだ。だから後者の方に、前者が硬い魔物Aを倒すのと同じくらいの難易度の魔物Bを振り分ける、みたいなことをやってたんじゃないかな」


「あぁ……分かったような分からないような」


「僕もあくまで話を聞いた上での推測だけどね……で、それでも、さっき言った人たちより総合値の低い人に魔物AやBより弱い魔物が選ばれる、ということにはならないようになってたはずさ。そうしないと不公平になるから」


「うーん……俺の場合は……」


「まぁ、ピーキーなステータスに合った、ピーキーな魔物が選ばれてしまってる感はあるけど、結局第三、四エリアに出現する魔物だからね。実際、面倒臭くはあっても、倒すこと事態は大変じゃなかったわけでしょ?」


「それはまぁそうだな」


 アイテムを獲得しようとしたら、非常に面倒だった、というのが俺にとって難易度が高かった理由だしな。

 それも器用が高いから出来るだろうという判断だったのだろうか。

 

「とはいえ、あんまり良くない試験っぽくなっちゃったみたいだから、その辺については僕の方から星宮に報告しておくよ。一例としてだけど。いいかな?」


「あぁ、それは全然。結局受かったからそこまで気にしてないんだけどな」


「そう?」


「そうさ。目的はそれだったんだから。それに、昔行われてたような試験よりはだいぶマシだしな」


「あぁ、それはそうだね……」


 樹の表情が曇ったのは、その試験の概要について思い出したからだろう。

 冒険者が職業となり、ランク制ができた当初の試験はひどいものだったという。

 そもそも、魔物を倒せないと話にならないから、魔物を倒すこと、とかが試験だったのだが、大量の死者が出たらしい。

 魔物の恐ろしさとか、そういうのをみんな分かってなかったんだよな。

 ちなみに日本ではなく、国外での話で、日本ではむしろ慎重派の人が多くて、なかなか試験を受けにきてくれず困ったらしいが。

 結果として、試験が安全性の面からある程度見直されるまで少数しか受けなかったので、当時の日本での死者は国外に比べると恐ろしく少なかったらしい。


「今回のも見直されるといいんだが」


「されるんじゃないかな。そもそも、ここ最近冒険者界隈は色んなことがありすぎて、正確な実力の測定とか難しくなっているんだよね。だからこそある程度無茶な試験になってしまったんだと思うけど」


「職業とか種族とかか」


「そうそう。アーツとかもあるし」


「そう言われると仕方ないか……次に俺がC級試験受ける時には、何かいいやり方ができてるといいな」


 そう思ったのだった。

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