第114話 妖人の里の迷宮

「……ここが《妖人の里の迷宮》か」


 里での《長老会》などに対する挨拶や、里の人々への面通しなどを経た後、俺たちは早速ここへやってきた。

 迷宮には様々な存在形態があるが、ここは所謂《建造物系》の迷宮のようだった。

 どういうものかと言えば、簡単にいうなら《転職の塔》と同じ系統だな。

 つまり、何らかの建物の内部、もしくは周辺がそのまま迷宮と化しているものだ。

 もっと細かい分類とか、専門的な話になってくると厳密な定義とかもあったりするのだが、俺たち冒険者はそこまで気にすることはない。

 内部を探索するときに、申請が必要な場合などは流石に気にするが、この迷宮はそういうものではないしな。

 ちなみに、迷宮を見つけておいて、国に届けなくてもいいのか、という話もあるが、迷宮は私有することも可能な所有権の対象だ。

 ただ、《海嘯》の危険もあるため、そういった事態を避けるために最低限、見つけた場合には申請をする努力義務が課せられている程度である。

 努力義務程度で済まされているのは、たまたま通りかかって「迷宮っぽいけど、まぁ、よくわかんないしいいか……」で通り過ぎた人が後で発覚した場合、そういう人も問題とするのかとか、そういうこともありうるからだ。

 実際、過去にはそのようなことが起こり、しかも中から魔物が溢れ出して魔境になってしまった後にそれが発覚した、なんてこともあり、色々と議論になったらしい。

 もちろん、その場合の被害はとてつもなく、個人に支払い切れるものではない。

 そんなものの責任をいちいち個人に求め続けるのも現実的ではないことから、そのくらいの義務で済んでるというわけだ。


「ここはしっかりと国に届けてはいるのじゃがな」


 梓さんは意外にもそう言った。

 彼女がここにいるのは、途中まで一緒に中に潜るためだ。

 彼女は霊力を持つ者でありながら、霊力を乱すというこの迷宮の十階層まで潜った強者で、内部の構造をある程度分かっている。

 案内役としては打ってつけ、ということだ。


「そうなのか? でも、妖人って、国に対しては……別に秘密ともなんとも言ってないな、そういえば」


「そういうことじゃな。といって、大きく公開しているわけでもない……内閣府にわしらのような存在を管理する部署が、一応あるんじゃ」


「初耳だな……雹菜たちは?」


「私も聞いたことないわね……あっ、でも紬たちは?」


「私は、この間の一件の後、少しだけ紹介されたわ。桔梗たちにみたいに、私たちのことをテレビとかで見て、何か感じた人たちがいたみたいで。ただ例外的に教えられただけで、普段は大規模ギルドのトップとかその周辺くらいにしか教えられていない情報みたい」


「……うーん、ということは、うちのお姉ちゃんとかもそういう人たちと関わったりしていたのかしら?」


「可能性は高いわね。《白王の静森》くらいになれば、色々と上層部だけが知ってる秘密、あるでしょうし」


「これから私たちも、知っていくものが他にもあるかもしれないわね……秘密保持には気を使わないと」


「そうだな」


 俺が頷くと、雹菜が俺の方を見て若干呆れたような顔をした。

 言いたいことはわかる。

 あなたはまず自分の秘密からしっかり守りましょうね、だ。

 まぁそれはそうだな、と心の中で思った俺だった。


「ともあれ……中に入りたいんだが、どうやってはいるんだ、ここ?」


 俺がそう尋ねたのは、この迷宮の形が変わっているからだ。

 具体的にいうなら、神社とその境内のような形なのだ。

 大鳥居が存在して、その先には遠く社が見える。

 かなり大きく見えるが、ただそれだけだ。

 そんな俺に梓は言う。


「鳥居を潜れば、そこから先はもう迷宮じゃ。別の空間に繋がっているような感じじゃな。真っ直ぐ進んだところで、あの社にはたどり着けん。別の場所に飛ばされる」


「それって……道順とかは?」


「勘で進むしかないのう……冗談じゃ。中に入ると鳥居が転移装置のようになっているようでの。同じ鳥居からは、同じ場所にしか飛ばぬ。戻るなら通ってきた鳥居をくぐり直せばいいだけじゃ。ただ、何も考えないで進んでいると永遠に戻れなくなるじゃろうから、気をつけるのじゃぞ」

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