第200話 違和感

「ま、そんなわけだから、今後しばらくは安心してギルド運営出来るだろうよ。それでもなんかあるようだったら、俺に言え。大抵のことはなんとかしてやる……」


 賀東さんがそう言って笑う。

 頼れる兄貴と言った表情だった。


「どうしてそこまでしてくれるんですか?」


 俺が思わずそう口にすると、賀東は言った。


「冒険者同士は助け合いだろ? それに、先輩は後輩に力を貸すもんだ……まぁ、それだけじゃ信じられねぇってんなら……そうだな。ここのところ、迷宮の様子がおかしいってのも理由かな。有望な新人たちを、くだらねぇ思惑で誰かに潰されるわけにはいかねぇんだよ」


「おかしいって……」


「低ランクが潜るような迷宮はさほど今までと変わってねぇとは思うがな。俺ら高ランクが踏み入るような迷宮の深層は、魔力の気配が濃いって言うかな……魔物もわずかだが、強くなってきてる気がするんだよ。動きも今までとは違ってる」


 これは知らない情報だった。

 深層には雹菜もたまに潜っているはずなので、彼女に視線を向けると、


「……私も薄々そんな気はしていたわ。でも、気のせいかもとも……そうじゃなかったのね」


「お前は深層に潜る時、今はソロが多いだろ? パーティー組んでかないと厳しいぐらいのところまで潜って、確信を覚えるくらいの話だからな。むしろお前が感じ取れてたのがすげぇよ」


「今後、冒険者の腕が上がっていかないと……きついことになるって思ってるってこと?」


「そういうこった。まぁ、そのためにはお前らだけ強くなっても仕方ねぇが……幸い、《転職の塔》が出来た。あれのお陰で、だいぶ冒険者の地力も全体的に上昇してる。ただ、それだけでもまだ足りねぇと俺は思ってる。《初期職》だけじゃ厳しい……レッサードラゴンをなんとか倒して、先に進まねぇとな」


 現状、《転職の塔》で転職できるのは、《初期職》のみだということは知られている。

 それ以上の職にどんなものがあるのかは当然分かっていないが、《転職の塔》をもっと攻略すればその先になれることはほぼ確信されている。

 しかしレッサードラゴンが奥への扉を守護しているので、あれをどうにかすることは全冒険者の悲願であった。

 外国でも同じように《転職の塔》がそれぞれの国に出現しているわけだが、やはりまだどの国も《初期職》までしか得られていないから、やはり先には進めていないのだろう。

 閉鎖的な国については情報統制している可能性もあるが……大国が攻略に苦心してるのだ。

 そうそう攻略できているとも思えない。

 それに……迷宮関連には、全体へと伝わるアナウンスの存在がある。

 俺にしか聞こえないものもあったが、全体へ大きな変化をもたらすものについてはしっかりと全体へとアナウンスされてきた。

 それを考えると、やはりどの国も《転職の塔》関連については同じ状況にあるものと思われた。


「倒せるかしら……?」


「どうだろうな。わからねぇが、俺はA級の中でも選りすぐりを集めて挑むか、S級の奴らを頼るかしかねぇと思ってる。ただS級の奴らはなぁ……偏屈すぎて、協力とかな……」


 ゲンナリした表情なのは、彼らが個人主義者ばかりだからだろう。

 流石に一人で迷宮の奥地まで行くようなのは一人しかいなかったはずだが、パーティーを組んでいるにしても、他のパーティーと協力して何かをする、ということはまず聞いたことがない。

 ただ、これは彼らが悪いというより、初期から強力な冒険者として知られてしまった彼らが、多くの悪い大人に利用されようとされすぎて、厭世的になってしまったという理由もあるから責められはしない。

 今のA級についてはそんな彼らを見ていたからか、うまく社会に溶け込んでいる人々が多いな。

 大規模ギルドのリーダーにS級ではなくA級が多いのはそんなところにも理由があった。

 

「確かにそれは……」


「言っても仕方ねぇけどな。ま、今すぐにどうこうって考えるほどでもないが。そうそう、雹菜。そんなわけだから、レッサードラゴン倒す時は、お前も推薦しとくから来いよ。お前もいいのがいたら連れてこい。じゃあまたな」


「えっ、ちょっ!」


 賀東はそのまま去っていく。

 そして、ギルド新人戦は閉会式をさらっと終えて、観客たちは帰っていった。

 その顔にはみんな、いいものが見れた、という喜びが満ちていて、雹菜VS賀東さんの試合は彼らを満足させたということがよく分かった。

 雹菜も運営との正確な報酬交渉を終えた後、ほくほく顔だったのは言うまでもない。

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