第199話 目的
その瞬間、ステージ上を、半球系の形をした何かが覆った。
少なくとも、俺の目にはそう見えた。
「……あれは……雹菜は大丈夫なのか……?」
「直前に、防御系スキルをありったけ発動させたのが見えましたから、おそらくは……」
俺の言葉に静さんが答える。
その間も、ステージを包む、赤い結界のようなものは消えない。
それどころか、ステージ内の攻撃から観客を守るために、十数人もの術師により構成されている結界にヒビが入り始める。
「おいおいおい、大丈夫か、あれ……!!」
カズがそう言った後、
「……怪我人が出た時のことを考えて、僕らも準備したほうがいいかもね」
樹もそう言った。
それだけの危険が感じられたのだ。
そして、その時間がどれだけ経過しただろう。
ついに、真っ赤に染まっていた結界内はその色を薄くしていき、内部の様子が見えるようになった。
「……雹菜は……!?」
「……あぁ、良かった。どうやら、無事のようです。ですが……満身創痍、ですか」
見れば、雹菜は血を流していた。
致命傷と呼ぶべきような傷はなさそうに見えるが……それにしても立っているのも辛そうなほどだった。
しかし、それでもまだ動ける、と雹菜はそのまま地面を踏切り、賀東へと突っ込む。
賀東はといえば、不思議なことにそのまま棒立ちになっていた。
雹菜の動きについてくることもできずに、そのまま吹っ飛び、まだなんとか存在していた結界に衝突し、そして背中からずり落ちる。
そして、首筋に雹菜の細剣が突きつけられると、口元に苦笑を浮かべながら、大刀から手を離して、両手を掲げた。
それを確認した司会の雷豪が、叫ぶ。
『……賀東選手、降参です! ということは……この試合、白宮雹菜選手の勝利!! なんてことだ……! B級冒険者が、A級冒険者の中でも猛者と知られる人物を下してしまったぁ!! あぁっと、しかし、流石に白宮選手、限界に近かったか……! ふらついている!』
見れば、確かに雹菜は足元がおぼつかないようだった。
「……行ってくるよ」
気づいてすぐに俺は立ち上がり、ステージに向かう。
「僕も行くよ。治癒しないと」
樹も続いた。
流石に俺たちは雹菜や賀東さんと同じようにステージまで一足飛びにジャンプして、というわけにはいかないが、観客席からステージのあるフィールドまでは飛び降りて、そのまま走って向かった。
観客保護用の結界はすでに解かれていて、ステージに普通に上がることが出来た。
雹菜は俺を確認して、
「……創。やってやったわ」
そう言って笑い、ぐらりと崩れる。
それを俺はキャッチして、それから膝をついた。
樹が近づき、治癒術をかけると、雹菜に刻まれた傷があっという間に消えていく。
「見た目より酷くはないね。僕でもなんとかなりそうだ」
樹の言葉に安心し、俺は雹菜に言う。
「やっぱりA級は厳しかったか」
「かなりステータス上がってるつもりだったけど、最後のやつがね。避けようにも……攻撃範囲がヤバそうだったし、かといって先手打とうとしても隙もなくてね」
「そういや、あの技? スキルはすごかったな……一体どういう……」
俺がそう言うと、後ろから、
「ありゃ、この刀の固有スキル《
そんな説明が聞こえた。
振り返ると、両端を黒服に支えられた賀東さんが立っていた。
「そんなの説明していいんですか?」
スキルの効果などは基本的に隠すべきことだ。
どんなスキルを持っているかももちろんのこと。
特にユニークスキルに近いだろうそれを、こうやって教えるのは普通はあり得ない。
だが賀東さんは言う。
「耐え切られたんだから、説明くらいはな。それにどうせこの刀がないと使えねぇもんだ。知られたところで問題はない……まぁあんまり言いふらさないでくれると助かるけどよ」
「俺は言いませんよ。雹菜は……」
「私も特には。それより約束、忘れないでよ?」
「魔導具な。分かってるよ。時間あるときにうちのギルドビルに来い。見学がてら、雹菜以外のやつが来てもいいぞ。お前らまだ、新しいギルドだから細かい仕事とか見学しておいて損はねぇだろ?」
「ありがたいけど、いいの?」
「別に構わん。あぁ、うちのメンバーの素行が心配なら、そこのところはしっかり言い聞かせておくから安心しておけ。まぁ、俺に勝つような奴がいるギルドのメンバーにちょっかいかけようなんてやつは、いないだろうがよ。他のギルドやら企業やらも、今日の試合見たら、同じ気持ちになるだろうぜ」
そう言って笑った賀東に、雹菜ははっとした顔をして、
「……もしかして、そのために喧嘩を売ったの?」
「万物鑑定士なんて入れたんだ。それくらいの情報、うちじゃなくても手に入れるのは簡単だ。その結果何が起こるかなんて、分かるだろ。争奪戦だよ。圧力をかけあったり物理的手段に出たりな。ただし、そいつらが自分の手に負えねぇほどの奴らなら、別だ。例えば、A級冒険者とも真正面からやりあえるような奴がリーダーにいる、とかな」
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