第573話 激戦の証
しばらく待っていると、砦に張られていた壁のようなものがいつの間にか消えていて、そこから中を持ち場にした冒険者たちが出てきた。
その中には、俺がここに転移した後、すぐに出会った竜司の姿もある。
《虫の魔物》たちについては、砦の外で追い払ったことになるから、中にいた彼らは特にすることもなかったのではないか、と思ったが……。
「おぉ、創!」
と言って近寄ってきた竜司の姿は結構すごいものだった。
体中が何かの緑色の液体に塗れているというか。
傷もそこそこあるようだが、致命傷は特になさそうなのが救いか。
元気そうな顔だし、まぁ無事なんだろうとは思うが、それでもつい言ってしまう。
「どうしてまたそんな緑色の液体まみれなんだ?」
俺がそう尋ねると、竜司はため息をついて言う。
「それがよぉ、聞いてくれ!」
そしてはじまった彼の話は、意外なものだった。
それによると、外で戦いが始まったのを察知して、砦の屋上から外を見ようとしたが、持ち場から離れられなくなっていたらしい。
どういうことか、と思って、しかし動けない以上どうしようもないとそこで待っていると、しばらくして砦の中にたくさんの《虫の魔物》が現れたと言うのだ。
一体どこから、と思ったが、とりあえずその時点では戦うしかなく、周囲の蜥蜴人兵士たちと協力して殲滅していったのだという。
「それで、どうなった?」
続きを促すと、竜司は話を進める。
「あぁ、あらかた近くの《虫の魔物》を倒し終わったまでは良かったんだが、その後また湧いてきてよ。それを三回くらい繰り返したんだ」
「そんなに……!?」
「あぁ。で、その段階になって、俺がいた場所の蜥蜴人兵士の中でも一番偉そうな奴が、元を叩かなければこれはどうにもならないって言い始めて、そこから移動しはじめてな。砦中を歩き回ることになった。どこから《虫の魔物》が湧いているのかを探してな」
「見つかったのか?」
「見つかった。砦の中央あたりに広い空間があるんだが、そこの床にデカい穴が空いててな。そこからわんさか這い出てきやがっててよ。そこからはとにかく殲滅戦だ。で、穴を塞ごうにも中にいるやつも全部倒さねぇとならねぇってんで、その穴に飛び込んで……ま、最終的には全部倒し切れて、穴も塞げたんだが、その結果がこれってわけよ」
砦の中に持ち場、と聞いたときは楽なのかなとか思っていたが、それが申し訳ないくらい激戦だったようだ。
俺たちは外でのびのび戦えただけ、マシなのかもしれない。
砦の中組の格好は、皆、揃ってひどいものだが、外組の者はそこまで汚れてはいない。
自分の血と、多少の返り血くらいで済んでいる。
「なんだか悪いけど、外を選んで正解だったと思ってしまうな」
「俺も外を選べば良かったと思ってるぜ……だが、中の方が激戦だったから、報酬は弾むみたいな話はあったぜ。それによるかもしれないな」
「へぇ、報酬で差がつくのか。文句が出そうだが」
「いや、この格好で何も特典なかったらその方が文句が出るぜ?」
「確かにそれもそうだな……」
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