第421話 お上りゴブリン

『ほう、これがこの世界の、普人の街なのか……実に興味深いな』


 歩きながらキョロキョロとしつつ、そう言ったのはゴブリン族のジャドだ。

 ゴブリンの集落での話し合いはあの後しばらく続き、そして最後にとりあえずの先遣隊というか、人間の文化を伝えるために、一人集落から出すという話になった。

 集落の長であるグリーズが来るのが一番だったが、彼はあの集落でも知能がかなり高く、またカリスマ性もあるようで、何かあっては困るからとジャドになった。

 ジャドもまた、グリーズに何かあれば、あの集落の運営について引き継ぐ立場にあるということだったから、そういう意味でもちょうどいいということだ。


 ちなみに、今のジャドの格好は、俺たちが渡したジャンバーや帽子などを被っており、その体はほとんど見えない。

 また、雹菜が持ってきていた認識阻害系の魔道具も身につけているので、周囲からの視線は集めないで済んでいた。

 流石にいくら魔物に慣れた現代人とはいえ、ゴブリンを急に見たら驚くからな。

 まぁテイマー系の職業持ってる人も増えてきているので、魔物を連れ歩いている人はそれなりに見るが、ジャドの雰囲気はなんというか、ほぼ人間であるので、そういうテイムされている魔物とは存在感が異なる。

 変に注目を集めないというのは必要なことだった。


『ゴブリンの本来の街はどんな感じだったの?』


 黒田さんが尋ねる。

 通訳のために必要なので、彼女も一緒に来ているのだ。

 このままとりあえずうちのギルドの支部まで来てもらう予定で、そのあとは通いで毎日来てもらう感じになる。

 まぁ俺は言葉を聞き取れるので問題ないのだが……やっぱり対外的に不自然になってしまうからな。


『俺が覚えているのは、このビルのように垂直な建物は少なく、もっと曲がりくねった尖塔などが多かったということだな。機械などについては、魔道具が主体で、電気を使った機械というのはなかったな……』


『なるほどね。想像しにくいけど……魔術が主体の文明だったのかな……』


「魔術? 術は別に魔のものではないが……』


『そうなの? 言われてみると、術系スキルって魔術系とは書いてないね……え、もしかして術って魔術じゃないの……?』


 おっと、黒田さんが地味に色々知識を得ていっている。

 ゴブリンはやはり、こういう知識を色々持っているのだろうな。

 迷宮やスキルの解明が、これから急ピッチで進んでいくような予感を覚える。

 まぁ、悪いことではないな。

 うちのギルドのメンバーだけが知ってることがたくさんある、みたいなアドバンテージは無くなってしまうが、人類のジリ貧状態が解消されるような知識も多くあるだろう。

 地球人類全体のことを考えれば、その方がいい。

 それに、俺たちがただ言ってるだけ、みたいな曖昧な広がり方ではなく、ゴブリンが知ってる裏付けのある知識、という広まり方をするならその方がいい。

 

『うーむ、俺も細かいところは覚えていないからな……知識や記憶が曖昧なのは……なぜなのかいまいち分からないが』


 ジャドが少し考え込んで言う。

 まぁ彼は自分が世界の影として生まれ、しかし自我に目覚めた存在だということは認識していないのだろう。

 これについては俺が聞いたから知ってるだけだしな。

 しかしどこかでそういう真実についても広げる必要はある。

 うまく誘導するなり、どこかネットにでも投下するなりした方がいいのかもしれない。


 そんなことを考えつつ、歩いていると、俺たちはギルド支部にたどり着く。

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