第447話 モテ
「……王のような威厳ねぇ。じゃあ例えば、俺が《正座をしろ!》とか命令したら……」
逆らえなかったりする?
とまで言い切る前に、ジャドは即座にその場に正座をした。
どうやら、本当に俺に対して抗えないものを感じているらしい。
俺は慌てて、
「わ、悪い! 《普通にしていいぞ!》」
そう叫ぶと、ジャドはほっとしたように立ち上がり、ため息をついた。
「……いや、気にはしてないが……驚いたな。特に意識も何もしていないのに、気づけば正座していた……」
「そういう感じなのか。反抗できないっていうより、俺から言われたらどんな意思を持ってても、やってしまう感じか?」
「そうだな。それに近い。ただ全く何の意思もなくなってるというわけでもないのだが。体が勝手に動いてるのを見るような感じだな」
「なるほどな……これ結構ヤバいかもな……」
俺がしみじみ言うと、雹菜も頷いて言う。
「もしもこれがジャドだけでなく、この世に存在するすべてのゴブリンに聞くならかなり危険な存在だものね、創は。一人でゴブリン軍を持っているようなものになるもの」
「そうだよなぁ……しかも、世界各地にゴブリンはいるわけで……」
「その気になれば迷宮にもいるわけだし。迷宮のゴブリンには命令が効くのかしらね?」
「それも確かめる必要があるな」
ただ、以前、《ゴブリンの王》の称号を得た後に遭遇したゴブリンは逃げていたから、効く可能性は高そうだ。
だとすれば、今の俺はゴブリンに対して無敵なのかもしれない……とか思うが、自惚れるのはやめておこう。
よく分からないものに頼ると失敗する。
何ができるか、できないかは慎重に検証していかなければならない。
あまりにも慎重すぎてもアレだけどな。
「ステータスに関してはどうですか?」
静さんが聞いてくる。
今の彼女でも俺のステータスは見ずらいらしく、俺が直接確認する方が確実で早いからだ。
俺は《ステータスプレート》を見ながら答える。
「器用と精神は変わらないけど、他は軒並み上昇してるな。やっぱり、ゴブリンの中でも強い種類だからか……」
普通に魔物と戦うことを考えると、ゴブリンキングという種族はかなり有用であるから、このままでいるのがいいということになりそうだ。
でも、それはちょっと困る。
いや、一定期間これでいる、というのなら構わないのだが、ずっとこれは……。
やっぱり、俺の感覚は人間のそれなので、ゴブリンの見た目は……。
そんなことを口にすると、ジャドが、
「ふむ、そういうものか? 中々に精悍な顔立ちだと思うがな」
と言ってくる。
「そう見えるのか?」
「あぁ。俺たちの集落にくればメスにモテることだろう。男連中からも兄貴と慕われること間違いなしだ」
どうやら、ゴブリン的には今の俺はイケメンらしい。
だが、雹菜から手鏡を借りて見る限り、そうは思えない……このあたりには乗り越えがたい壁を感じるな。
ちなみに、ジャドからすると、人間の見た目は微妙なようだ。
女性を見ても特にどうこうしたいとも思えないらしい。
よくある、ゴブリンが人間を苗床に……みたいなのはないということだろうか?
迷宮のゴブリンだと分からないが、理性を持ってるゴブリンからするとあり得ないとは言えるのだろう。
「ともあれ、ゴブリンにモテるのは遠慮しておこう。ジャドが人間にモテるのと同じような感じだからな」
「それなら気持ちはわかる……それで、他の種族になるのか? 俺としてはこうして普通に話せるようになったのが嬉しいのだが」
「俺もそれは良かったと思うが、とりあえず他のは試しておきたいしな。喋りたい時はまた種族を変更すればいいし」
「まぁそれもそうか……名残惜しいが、次の種族を選ぶといい」
「あぁ」
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