第90話 VSオーガ大神官
一体どんな闘い方をするのか、想像がつかなかった《オーガ
《ゴブリン暗黒騎士》の時のことを考えるに、一般的な魔物とは比較にならないような敏捷や膂力を持つであろうことを警戒したからだ。
しかし、結果的にその選択は悪手だった、ということを俺は次の瞬間知ることになる。
《オーガ大神官》は後退する俺を追うことなく、杖を両手で持って何かを念じるように力を込め、それから杖先を地面に叩きつけたのだ。
すると……。
「……召喚系、か!?」
フォン!と、地面に複数の魔法陣のような紋様が描かれ、そしてそこに魔力と思しきエネルギーが集約した。
それらは不可視のエネルギーから、現実に存在する物質……魔物へと姿を変える。
オーガ系統の魔物……棍棒を持った《オーガウォリアー》と呼ばれるものと、素手だが拳に拳帯のようなものを巻いている《オーガグラップラー》と呼ばれるものが、二体ずつ……。
ただでさえ、実力差がありそうなのに、人数差まで出てくると、これはもう詰んだかな、という気分になってくる。
しかし、それでも諦める、という選択肢はあり得なかった。
スキルも何もない状態で、それでも冒険者になるという道を、諦めなかったのと同じように。
どれだけ厳しい状況でも、俺は戦うのだ。
幸い、というべきか、希望と言えばいいだろうか。
あの《オーガ大神官》は召喚系の術によって取り巻きを呼び出したわけであるから、《オーガ大神官》自体の身体能力は意外と低いかもしれない、という予測が成り立つ。
術師系統の魔物というのはそういう傾向があるのは事実であるし、おそらくは前衛を呼び出して支援を重ねるタイプだろう……違かったら、その時はその時である。
一応のこの推測に従って戦うなら、前衛の魔物はさっさと倒してしまった方が、いい。
大神官の名をもつような存在だ。
そこから連想されるような術やスキルを持っているはず。
僧侶系統の魔物というのは、オーガはともかく他の魔物にはいて、大体が支援系の術を使ってくるのだ。
あいつも同じなら……。
俺は地面を踏み切り、向こうが完全に体制を整える前に攻撃を始める。
《オーガ大神官》が出現した時とは異なり、召喚系統のスキルや術というのは、発動している最中でも妨害ができるものだ。
だから本来であれば、完全に出現しきってしまう前に、魔法陣や《門》と呼ばれるものに干渉してしまった方が楽だったのだが、距離をとってしまったことが裏目に出た。
それでも、まだ向こうは準備が整っていない。
今ならいける……!
「……《樹氷剣》!」
魔力を操り、形を固めると、それを地面に流すように進めて剣を振るう。
すると、地面から樹木が生えるように、幾つもの氷の槍が、オーガたちに向かって進んでいった。
これは、雹菜と迷宮を探索している際に、彼女のアーツを模倣して身につけたもの。
《
雹菜しか使い手がいない、《氷姫剣術》の一つであり、威力は折り紙付き……。
実際、それがオーガたちに命中すると、その足を押し固めることに成功する。
さらに彼らの体にも突き刺さり……これで倒れてくれ、と願ったが、
「ウガァァ!!」
と、後方に控える《オーガ大神官》が吠え、杖に力を込めると、そこから光が《オーガウォリアー》たちに降り注ぐ。
まずい……一匹くらいは!
そう思って俺は急いで距離を詰め、四匹いる前衛のオーガたちの一体……最前にいた《オーガグラップラー》の首に思い切り、《豚鬼将軍の黒剣》を叩き込む。
オーガ系統の体皮は、鉄よりも硬いとよく言われるほどの耐久力を秘めているが、《豚鬼将軍の黒剣》の切れ味はそんなものをものともしないほどに、スッとその肉を切り裂いた。
《オーガグラップラー》の首が飛び、しかし、その体は生命力を失わずに少し暴れて俺をひっ掴もうとしたので、俺は慌てて距離を取る。
するとその瞬間、《オーガ大神官》から光が飛んできて、《オーガグラップラー》の体をそれが包んだ。
「治癒術まで持ってるのか……! いや、当然か。でも……」
流石に、首を飛ばされた魔物の命までは救えないらしい。
光はすぐに力を失い、そしてそのまま《オーガグラップラー》の体は地面にどさり、と崩れ落ちたのだった。
「まずは一体……あと、四体だ……」
戦いは、まだ始まったばかりだった。
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