第428話 懸念
「予定、ということはまだ誰の手にも渡ってないんですね」
俺が尋ねると総理は頷く。
「あぁ。と言ってもそれら魔道具を惜しんでのことでは勿論ないよ。どういう性能の品か、十分な鑑定が出来てからでないと、せっかくの品が無駄になってしまうからね……あぁ、そうそう。そこで《無色の団》にも協力して欲しくてね」
「うちの宮野ですか?」
静さんのことだな。
雹菜も静さんの方に少し視線を向けてから言った。
彼女は《万物鑑定》を持っている。
確かにこの世に存在しなかった魔道具の正確な性能を見るのなら、適任だろう。
「その通りだ。もちろん、十分な報酬は支払う。安全も保証しよう……」
「その時は、私が付き添いますよ。でも、護衛もつけてくださると」
「分かった。では、後で詳細の書かれた資料を送らせるから、頼んだ」
「はい」
「さて。とりあえず私が今、ここで話さなければならないことは一通り話したかな。今後のやりとりは……」
「ジャド……ゴブリンの彼に着いては、うちを通して連絡をくださればと思います」
「あぁ、彼らに着いては《無色の団》を代理人としよう。今後、ジャド殿以外のゴブリンの集落と連絡をつけた冒険者なども現れると思うが、その場合の情報提供なども約束しておこうか。ジャド殿は他の集落など見つかったら、気になるかね?」
これはゴブリンの同族意識について気になっての質問だろう。
ジャドは少し考えてから、答える。
『俺は、俺の集落近くの迷宮から出てきたゴブリンしか知らない。だから、他の集落があるとして、そこにいるゴブリンたちの性質が俺たちと同じかはわからないが……しかし、話してみたいとは思う。考えも近いのであれば、ゴブリン同士で連帯した方が、いろいろな意味でやりやすいだろうとも』
「確かにそうだろうね。我々としても、交渉窓口が一まとめになっている方が楽ではある。法律上の扱いを決めるときも同様だ。とりあえず、現在君たちが住んでいる土地などについては現行法の範囲内ではあるが、問題ないよう手を回しておく。もしも普人と揉め事が発生しそうな場合には、連絡してほしい。すぐに対応する」
『分かった。よろしく頼む」
「うん。では、そのために早速動なければ……そろそろお暇するよ。私に直接連絡がある場合は、こちらに電話してくれ。では」
総理はそう言って、名刺を雹菜に手渡して出ていく。
外に待っていたS Pたちが驚いたように背筋を伸ばし、そして歩いていく総理の周囲に広がる。
俺たちはそんな総理をギルド入り口まで見送ったのだった。
*****
「これでジャドたちについては当面の心配はないわね。もちろん、事態を注意深く見守っていく必要はあるけど」
雹菜が応接室でそう言った。
部屋にはジャドもまだいるし、静さんと黒田さんもいる。
俺もな。
『政府のトップとあれだけ取り決めをしっかりしたのに、まだ心配が?』
ジャドが尋ねてきたので、雹菜が答える。
「まぁ、ね。トップが決めたからといって、みんな従うとは限らないから。特に、ジャド、あなたたちゴブリンは知的生命体だから難しいところがたくさんあると思う。あなた達の権利を守る、と言いながら、無茶なことを言ってくる集団とか、そういうのが生まれる可能性が高いわ」
『よくわからないが……?』
ゴブランにはきっと、謎の動物保護団体とか無かったんだろうな。
まぁあんなものは無いに限る。
本当に守るならともかく、全然そんなつもりのない妙なことばかりしているところが多いからだ。
「いずれわかると思う。こればっかりは実際に見てみないとなんとも言えないから……出来ればそんなもの生まれてほしくないんだけどね……」
ため息をついた雹菜だったが、そんな希望が叶うとはとても信じてはいないようだった。
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