第429話 公表
数日後、テレビを見ているとゴブリンの話題が流れているのが見えた。
『……先日政府が発表した、人類以外の知的生命体であるゴブリン族ですが……』
真面目そうな顔立ちのアナウンサーが真剣にニュースを読んでいるが、その表情には好奇心というか興奮のようなものも感じられた。
ここ数日間はずっとそうだ。
というのも、俺たちはもちろん知っていたことだが、人類以外にはっきりと交流できるだけの知能を持った知的生命体の存在を、人類は初めて得たのだから。
しかも、その数はかなり多く、すでにそれなりの集落を各地に築いているというのだから、誰もが驚いたのは無理もない。
ちなみに、まだ妖人の存在は明かされていないが、ネットを見ていると掲示板などで、
《渋谷を歩いてるあの耳と尻尾の人たちってゴブリンみたいな、人類以外の種族なんじゃないか?》
《バカ、だったらあんな堂々としてるはずないだろ。そもそもあの人たち物産展とかやってんだぜ》
《それもそうか。でもなんか近くで見るとあの人たちの耳、普通に血が通って見るみたいに動いてるんだが》
《最近の技術は迷宮由来のもの多いし割となんとでもなる》
みたいな会話がなされているのを見たから、半ばバレてるようなもんじゃないか?という気もしている。
まぁこれくらい受け入れられていれば、公表されてもさしたる問題は生じないのかもな。
大体、妖人の皆さんは耳と尻尾以外は人間と変わらない見た目だし。
普通に日本語喋るし。
問題はゴブリンだ。
彼らは当然、まだ日本語を話すことができない。
《翻訳士》の職業とスキル《ゴブリン語》 がなければ、会話もままならない存在だ。
だからこそ、集落が見つかってもお互いに睨み合いの状態になってしまってる場合も多々あるようだ。
場所によっては討伐してしまった、みたいなこともあったようで、これは悲しい出会いだったな。
今までであれば、はぐれゴブリンについては率先して討伐することが推奨されていたから、討伐してしまった冒険者たちが悪いわけではないのだが、イルカやクジラを殺したみたいな扱いをして騒ぎ立ててる団体がすでにポツポツ現れている。
過激なのは迷宮にいる全てのゴブリンに人権を、とか言っているのもあるくらいだ。
迷宮内のゴブリンについては、今まで通り魔物として討伐して問題ないことは、政府からも発表されているのに、である。
人の話を聞かない奴らというのは、やはりいつの時代もいるものだ……。
ちなみに、すでに海外ではゴブリンの集落一つを囲い込んでそういう活動をしている人々もいるようで、これから先のゴブリン周りの状況は注視していかなければならないだろう。
囲い込んでいる理由は、他の集落との交流をさせないためなのだろうが……。
ジャドたちも、すでに他の集落の一つとの交流を始めたようなのだが、かなりすんなりと進んでいる。
その理由は、彼らにはやはり、共通の記憶があるためだ。
自分の過去として覚えているわけではないが、ゴブランでのことを、他人の記憶として、断片的に持っていることはどの集落のゴブリンでも共通しているらしい。
そして迷宮から出てきたのち、その記憶の中の知識をもとに活動し、集落を築いていることが大半なので、相互理解もすぐに進むのだ。
それを考えると、ゴブリンたちについては集落同士の交流をさせて、その上で代表者を出してもらう、というのがゴブリンと人類との交流にはいいと思うのだが、悲しいことに人類がその進展を阻んでいる。
どうにかできないものかな、と思うと同時に、多分俺の称号は、こういう時に役に立ちそうだという気もしていた。
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