第275話 調整

「……本当にこっちなのか? いや、信じていないわけじゃないんだが……」


 エリザがその言葉とは裏腹に若干、微妙な表情をしながらそう言った。

 その気持ちは分かる。

 彼女には俺の感じているものが感じられないのだから。

 魔力を明確に見られる、理解できると言うのはやはり稀有な才能なのだろう。

 そんなことを考えながら俺は言う。


「多分あってると思うぞ。ただ、金人形って小さいだろ? 見落としそうでさ……二人ともしっかりと見ててくれよ。あぁ、他の魔物も警戒しないといけないが……それくらいは俺もするしな」


「もちろんそれくらいはお安い御用だが……」


「金人形は私が! しっかり! 見てますよ!」


 ミリアが妙に気合の入った声でそう言った。

 本当にガメツイ……というと怒られるか。

 そして……。


「あっ! あれは……もしかして本当に!?」


 ミリアが、ひそひそ声で驚きつつ、そんなことを言う。

 通路の先の方を指差していて、その先にいたのは……。


「……金人形だ。本当にいたな……しかもまだ気づいてないぞ」


 エリザがそう言った。

 俺たちの視線の先にいるそれは、小指大ほどの大きさの黄金色に輝く人形で、先ほど冒険者たちが持っていたものとは違い、ちゃんと動いている。

 ちょこまかと動くその姿はどこか可愛らしいような印象も覚えるが……しかし、あれは倒さなければならない魔物だ。

 覚悟を決めなければ。

 ただ問題があるとすれば……。


「あれ、相当すばしっこいんだよな?」


 俺が尋ねると、エリザが答える。


「私もほとんど見たことはないが、前に目撃した時はこちらに気付くと同時にものすごい速度で向こう側に消えていったぞ。襲いかかってくると言うこともほとんどない魔物だからな……」


「ってことはどうやって倒すの? こっちも目にも止まらぬ速さで動く? ……現実的じゃないわ。あ!」


 言いながらミリアが俺の顔を見てから言う。


「そうよ、ハジメさんに補助魔術をかけて貰えば……」


 良いアイデアのような気がしたが、エリザは首を横に振って、


「それでもやれるか私は自信がないんだが……」


 と言う。


「じゃあどうすれば……」


「ダメ元でやってみるか……通常なら魔術を遠くから放って倒すんだが。防御力はほぼないからな。石弾ストーンバレットなんかを一発当ててやれば、それで体内の核が壊れる。だから……」


 エリザがミリアを見るも、彼女は難しそうな顔で、


「流石にこの距離であの小ささの魔物に命中させられるかは自信がないのよ……」


 と言う。

 確かにかなり小さいからな。

 だが……。


「……俺にやらせてもらえないか?」


 俺はそう言った。

 これに二人は、


「別に構わんが……」


「何か勝算があるんですか?」


 と言ってきたので俺は答えた。


「勝算ってほどじゃないけど……魔術を放った後、避けられてもうまく追尾させれば良いんじゃないかって……」


 これにミリアが、


「追尾と言っても……確かに魔術を放った後、弾道を調整することは出来ますけど、そこまで細かくは難しいですよ?」


 大雑把な弾道の調整は、ミリアも出来る。

 だが、俺はもっと細かくできるんじゃないか、と感じていた。

 だから少し自信ありげな表情になったのをミリアは理解したようで、


「……自信があるんですね。じゃあ、やってみてください。というか、そもそも倒せなくても構わないわけですしね。あれが目的でここに来たわけじゃないですし」


 そう言った。

 さらに、


「まぁそれもそうか。じゃあハジメ。やってみてくれ」


 続けてエリザもそう言った。

 だから俺は頷いて言う。


「あぁ、じゃあ早速……」


 そして俺は石弾の《陣》を描き、起動魔力を注いだ。

 威力だけ心配だったので、少なめで調整してみると……意外と出来た。

 完成した《陣》から、石の礫が射出される。

 それは物凄い速度で飛んでいき、少し離れた位置にいる金人形の元へと向かった。

 しかし、金人形はそれに気づいたようで、素早く避けようと地面を蹴った。

 すごい反応速度だ。

 けれど、俺はその瞬間、石弾の軌道をずらす。

 これについては流石の金人形も予想外だったようで……。


「……ギャッ!」


 という声とともに、命中したのだった。

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