第29話 ドロップ品の扱い

 俺はそのドロップ品を拾い上げる。


「ええと……短剣、だな」


 俺がそう呟くと、雹菜も頷いて言う。


「いわゆるゴブリンダガーでしょうね。ゴブリンがよく落とすものよ。と言っても、そんなに頻繁に落とすわけではないけど。ラッキーね」


 どうやら、このドロップ品を見たことがあったらしい。

 俺も、ドロップ品についての図鑑で見た記憶があるな。

 魔物のドロップ品については、貴重なものについては秘匿されたりしていたりするが、そうでないものについては結構公開されているのだ。

 一般の書店で販売されている図鑑なども存在する。

 俺が読んだものは、冒険者系の高校でのみ買うことが出来る、いわゆる副教材だったため、かなりたくさんのドロップ品が記載されていた。

 冒険者にとって、ドロップ品など、迷宮で得られる品というのはそのまま稼ぎに直結して来るから、比較的ちゃんと覚えていたが、実物を見ると微妙に違うな。

 というのも、こういう武具でも何でも、全てが同じ見た目、というわけではなく、細部が異なっていたりするからだ。

 完全な判別にはいわゆる、武具についての鑑定スキルを持つ者に見せなければならない。

 俺の持っている《豚鬼将軍の黒剣》だとて、そうしなければ名前もはっきりしなかったのだ。


「確か、売ったら三万円くらいだったか?」


「ええ。結構出回ってるけど、丈夫で使いやすいからね。剥ぎ取りなんかに使うこともあるから」


 剥ぎ取り、というのは迷宮の魔物が消える前にその素材を得るか、魔境の魔物から素材を得ることを言う。

 魔境の魔物は基本的に倒しても吸収されるべき迷宮の外にいる状態になるため、その死体は消えたりしないのだ。

 迷宮の魔物の場合、稀に消えない場合があり、これは魔物の体自体がドロップ品なのだ、とか色々な説が唱えられているがはっきりはしていない。

 ただ、魔物の素材というのはたとえゴブリンのものであっても非常に貴重だ。

 本来、この地球上では見つかってこなかったような性質のものが数多くある。

 わかりやすいところで言うなら、ドラゴンの鱗なんかは軽くて薄いのに、同じ厚さのどんな金属よりも丈夫だったりとかするなどだ。

 剥ぎ取りもまた、冒険者の良い稼ぎになる、と言うわけだな。


「どうするの? これ、後で売る? 売るつもりがあるなら、うちのギルドで捌くことも出来るわよ」


「どこかの店に持ち込んだりとかは?」


 ドロップ品などは、国から免許を与えられた店が普通に売買している。

 貴重な品はそれこそ競売にかけられたりするが、そうでないものはそういう店で売却することが出来る。

 だから売るならそっちの方が簡単ではないか、と思ったのだが、


「結構マージン取られるから、ギルド通した方が得するわよ」


「ギルドに入ってない俺でも、ギルドを通して売れるのか?」


「問題ないわ。まぁ、大抵の冒険者は自分の所属ギルドで売るものだけど、制度的に他のギルドの人間からはドロップ品なんかの売買をしない、みたいな決まりがあるわけじゃないもの」


「そういうことなら、売りたいものが出たらお願いするよ」


「あら? ということはそのゴブリンダガーは売らないのね」


 俺の話ぶりから、俺の考えを見抜いたらしい。

 俺は頷いて答える。


「あぁ。せっかく初めて自力で得たドロップ品だし……」


「だから初めてはそっちの黒剣なんだけど……」


「覚えてないからな。まぁ、記念品に持っておきたい。それに、剥ぎ取り用の短剣、俺、学校支給のしか持ってないし。そういう意味でもいいかなって」


「なるほどね……じゃあ、次は売れるものをゲットしにいきましょうか」


「え?」


「たった一匹のゴブリンを倒しただけで、帰るわけじゃないでしょう? 次行くわよ、次」


「……マジか」


 俺としては今日はこれで満足、と言いたいところだが、確かに時間はまだまだあるし、そもそも、普通の冒険者は一匹倒しただけで帰ったりなどしない。

 流石に魔力が尽きるまでいたりもしないけれど、俺の場合はスキルがないからその心配はなく、体力があるうちは居てもいいだろう。

 そこまで考えて俺は頷く。


「わかった。次の魔物を探しに行こう」


「ええ……あっ、そういえば、次に戦う時についてなのだけど、ちょっと相談があるの」

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