第28話 魔物の力
棍棒を振り上げ、襲いかかってくるゴブリン。
それよりもやや遅れて、《豚鬼将軍の黒剣》を振り上げる俺。
遅れたのは、やはりまだ怯えが俺の中にあるからだと思う。
けれど意外なことに、タイミング的には俺の方が遅かったのに、剣を先に振り下ろしたのは俺の方だった。
「……グゲッ!?」
当たる、そう思った瞬間。
ゴブリンはその野生的勘からか、大きく後ろに下がる。
「やっぱり、最下級って言っても魔物は魔物ってわけか……くそ!」
ゴブリン、と聞くと誰もが舐めがちになるような存在だ。
迷宮などに潜ることのない、一般人はゴブリンを倒して日銭を稼ぐような冒険者を、冒険者の底辺とか呼んだりして馬鹿にすることもある。
だが、実際にはそんな風に扱えたような存在ではない。
奴らは、魔物だ。
つまり、魔力を少なからず持っていて、それが作用し、彼らの身体能力をそのサイズや見た目以上に強化している。
もしも、一般人がこのゴブリンと戦った場合どうなるか。
おそらく、ほとんど何もすることが出来ずに蹂躙されるだろう。
迷宮出現前なら、プロレスラークラスの腕力があって、初めてまともに相対出来る。
それくらいの力を、こんな子供のような体型でしかない緑肌の化物は持っているのだった。
反射神経も鋭く、そう簡単に攻撃を当てられるような相手でも、ない。
俺もそれは分かっていたはずなのに……。
いや、まだだ。
ここで引いては仕切り直しになってしまう。
それも悪い手ではないだろうが、今のゴブリンは予想外の事態に反射的に引いた状態だ。
つまり、動きの予測がしやすい。
実際、少し体勢を崩していて、これ以上の後退は難しそうだった。
右足をついた状態……ここは、右だな。
そう思った俺はさらに前に出て、剣を再度振り上げる。
「……うぉぉぉぉ!!!」
そして、狙った場所に振り下ろすと、
「ギャッ……」
と、ゴブリンの悲鳴が上がる。
少しだけ狙いが逸れて、腕を切り落とすに留まる。
ただ、まだ絶命はしていない。
その目には憎しみが宿っていて、まだ諦めてはいないことがわかる。
魔物というのは最後の瞬間まで、こちらの命を狙ってくる。
だから決して、完全に絶命させるまでは油断してはならない。
俺はその教えに従い、さらに剣を振り上げた。
流石にこれだけの重傷を負っていれば、いかに魔物であっても今までのような動きは出来ない。
事実、ゴブリンは俺の剣を避けようと体に力を入れようとするが、ろくに動くことも出来ずに、俺の剣をその身で受けることになった。
まさに脳天の、一番いい部分に命中し……そして今度こそ、ゴブリンは絶命する。
確認するまでもないのは、真っ二つになったからで、俺はほっとして体を弛緩させた。
魔物によっては真っ二つにしたところでまだまだ生きてる、なんて場合もあるけれど、ゴブリンは流石にそのようなことはない。
最初の相手がゴブリンで良かった、と思った。
「……創、やったわね!」
今まで黙って俺の戦いを観戦していた雹菜が駆け寄ってきて、弾んだ声でそう言った。
それで俺は、自分の成果にやっと現実味が感じられて、
「……あぁ、俺……倒せたんだな。魔物を……!」
「初討伐おめでとう! ってわけじゃないけど、しっかりと記憶に残ってるのは、初めてってことでいいわよね」
「そうなるな……初めて討伐した魔物は豚鬼将軍です、って言ったところで誰も信じてくれないだろうし、基本的にはゴブリンが、って方がいいし」
「それもそうね……あっ、創!」
話しながら雹菜がふと、視線をゴブリンの遺骸に向ける。
すると、そこには光と共に消えていくゴブリンの姿があった。
迷宮の魔物は、こうして倒されてしばらくすると、魔石を残して、その身を完全に消滅させる。
そこらに飛び散った血とかも同様に消えてしまうのだ。
ただ、剣についた血とかはそうもいかなかったりするので手入れが必要だったりするのだが、まぁそれはそれとして。
「……ドロップ品?」
そう、ゴブリンが消えた場所には、魔石の他に、何かが落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます