第165話 静からの依頼
「……さて、他に何か聞きたいことはありますか?」
静さんが小首を傾げつつそう尋ねた。
一見すると涼しげなクールビューティーだが、そうするとむしろ可愛らしさの方が際立つ。
そんな彼女に雹菜が、
「……聞きたいことというか……あの、またこれから、何か鑑定してほしいものがあった場合、お願いすることはできるでしょうか?」
と尋ねる。
ギルドの責任者たるギルドリーダーとしては、なるほど、当然それが気になるだろう。
そもそもがアポイントを取るのが極めて難しい相手な訳で、今回たまたま取引として鑑定してくれたと言っても、次もまた、というわけにはいかないかもしれない。
そう思ったのだろう。
しかし静さんは、
「そんなことですか? 勿論構いませんよ。私があまり依頼を受けないのは……まぁ、先ほどのような方がよくいらっしゃるから、というのと、私が身を守れるかどうかが恐ろしいというだけなので……。皆さんになら。それに今更ですが、雹菜さんも言葉を崩していただいて構いませんよ?」
と言ってくる。
言われてみると、彼女だけまだ敬語だったな。
仕事相手としての敬意を払って外さずにいた、という感じかな。
あと俺と樹がその辺り適当すぎるのかもしれない。
「……では、お言葉に甘えて。外しどき逃しちゃってちょっとしまったと思ってたのよね……」
いや、ただタイミング逃しただけか。
それから雹菜も、
「当然だけど、静さんも敬語とかいらないわよ?」
と言うが、静さんの方が、
「私はこっちの方が楽なんですよね……特に気を遣っているというわけではないので、お気になさらずに」
と言った。
まぁ確かに似合ってはいる口調であった。
気を使ってない、というのも本当なのだろう。
敬って話しているという感じの言葉遣いではないからな。
かといって距離感を感じるということもない。
さっき吹っ飛ばされていた中年男性に対する時の声色は、冷たげで距離のあるものだったが、あれは自業自得というものだ。
「そう? ならいいのだけど……あっ、そうそう。私たちの用事は終わったわけだけど、静さんのことよ。契約についてだけど……」
そうだった。
静さんは何らかの協力を俺たちに求めていたが、その詳細についてはまだ話していない。
これについて、静さんは単刀直入に言った。
「それなのですけど、先ほど私のステータスを見たでしょう? あれについてなのです。私はあれを、どうにかしたい。少なくとも一般的な冒険者程度に……いえ、それが無理でも、一般人程度にはしたい。そう考えています。ですけど……その方法が私一人だと難しい」
「っていうと……まぁ、冒険者が能力を上げる、と言ったら一つしかないわよね」
「その通りです。私と一緒に迷宮に潜っていただけませんか? それが私からのお願い、取引条件です」
これに俺たちは顔を見合わせる。
迷って、というよりも、そんな簡単な条件でいいのか、と思ったからだ。
これについて隠しても仕方がないことだから、俺が尋ねる。
「そんなことだったら俺たちでなくても出来そうだけど……?」
しかし静さんはゆっくりと首を横に振った。
「信用が出来る相手でなければ、難しいです。自意識過剰と思われるかもしれませんが、誘拐されても私は抵抗が難しいので……魔道具を何らかの方法で奪われれば、それで終わってしまいます」
「あぁ、初見なら気づかなくても、一緒に迷宮なんかで活動していれば、気づくか……」
もちろん、魔道具で強化されていることについてだ。
そして気づかれれば、外せば無力化できる、と考えることもあるだろう。
そのような目的があれば。
さらにいうなら、職業の解放により、相手の持ち物を奪うスキルというのも存在することが分かりつつある。
そう言ったものを使われれば、さらに危険だということだ。
「そういうことです。ですが、皆さんなら……そういうこともないのではないかと。秘密を抱えているのは、皆さんも同じで、お互いにそれを共有している間はそうそう裏切ることも難しいでしょう? まぁ、極論、私をどこかに監禁して誰とも接触できないようにすればそれで終わりでしょうけど、そこまですれば冒険者省も動くでしょうし、そんな愚かなことはしない人たちだというのは鑑定せずとも分かりますから」
「そりゃ、勿論……雹菜、いいんじゃないか? 樹もいいよな」
「うん。僕も出自とか言い触らされるのも勘弁だしね」
肩をすくめつつ言ったのは、冗談だからだろう。
そして、最後に雹菜が俺たちの総意として静さんに言った。
「では、静さん。私たちは貴方の提案を飲みます……これでいいかしら?」
「ええ、どうぞよろしくお願いします」
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