第308話 依頼山積

「……大雑把なことは聞いてたけど、聞けば聞くほどとんでもねぇ話だよな……異世界ってマジかよ」


 俺が、向こうであったことの全てを全員に話し終えると、ため息をついてカズがそう呟いた。


「紛れもなく事実だよ」


 俺がそう答え、続けて、


「真実であることはわしが保証してやるぞえ。そもそも今更じゃが、わし、異世界出身じゃしな」


 と梓さんが言う。

 これには雹菜と俺以外の全員が驚く。

 梓さんはどこ吹く風で、


「お? そういえば言ってなかったの。オフレコで頼むぞ」


 と言って笑った。


「……まぁどこか変わった人だと思ってたし、妖人なんてどこから来たんだとは思ってたから、納得感はあるけどね。でも梓さんの元いた世界と、創が行った世界は違うんでしょう?」


 樹が早めに飲み込んで尋ねる。

 これには梓さんが頷いて答えた。


「全く別じゃな。まぁわしの世界には今の所どうやっても行けんから、気にしないでいい。じゃが、今後、創が異世界に行ってもわしならある程度無理をすれば連れ戻せるでな。一生会えないみたいなことにはならんから、安心せい」


「そっか……それなら多少は安心できたかな」


 樹がそう言った後、雹菜が、


「ま、最近の創についてはそんなところかしら。とりあえずいきなりで驚いたと思うけど、しばらく噛み砕いておいて。で、今後の方針なんだけど……」


 と流して言う。


「随分とあっさり進めるな、雹菜」


 そう言ったのは守岡さんであった。

 彼もまた、梓さんと同じで顧問としてこのギルドに属しているが、普段は自分の店にいるからそれほど来ない。

 だが、ここに来た時は治癒術関係について、樹に教えたり、また他のメンバーに迷宮攻略についてのアドバイスを行ったりなど、意外に活躍してくれているらしい。

 俺が向こうに行く前はそれほど頻繁には来てなかったが、俺がいなくなってみんなのメンタルが落ちていたのを支えてくれていたようだ。

 この人には本当に頭が上がらないなと思う。

 そんな彼に雹菜は言う。


「あっさりっていうか、今の話を飲み込むのに流石にみんな時間が必要でしょ? いずれ異世界については皆にも行ってもらいたいし、そこはしっかりと納得してもらわないといけないから、適切な時間をとりたいだけで」


「……そこまで考えてるのか。行き来する手段があるんだな……まぁ、俺は構わないが、今の言葉でまた皆驚いてるぞ」


「あ、ごめんなさい。ちょっとみんな今の話は少し忘れてていいわよ。それに行くとしてもしばらく先になるだろうし。まず片付けないことがいくつかあるからね……静」


 そう言うと、静さんがタブレットを手にして頷き、口を開く。


「創さん以外のメンバーは既にご存知でしょうが、我がギルドにはここのところ仕事が山積しております。もちろん、コツコツと片付けてもらっている通常の仕事については問題ないのですが、せっかくこうして主要なメンバーが集まっているので、ご相談したいことがいくつかあるのです」


「大まかに言って、三つね。まぁそのうち一つは普通の仕事、に入れていいんだけど……」


 雹菜がそう言った後、静さんが続ける。


「一つは、地域支援のボランティアですね。冒険者高校……創さん、慎さん、それに美佳さんの母校から、《無色の団》へ実技実習に参加してもらえないかというものです。これについては私も先ほど雹菜から聞いたことなので詰めていないのですが、参加したい方がいらしたら申し出てください。加えて、高校生にギルドの案内などすることもあると思うので、その辺り頭の片隅にでもおいていただければというくらいですね」


 これについては俺が雹菜にここに来るときにアバウトに相談しておいたことだな。

 もう受ける方向で話を通してくれていたらしい。

 話が早いな。

 いや、佳織が昨日の時点でメールでもしていたのかもしれないが。

 

「次に、賀東さんの《黒鷹》への訪問についてですね。これは後回しにしてしまっていたというか、《転職の塔》関係で大規模ギルドが受けた損害によって《黒鷹》に皺寄せがあり、なかなかスケジュールが確保できなかったのがあるのですが……先日、向こうからそろそろ来てもらって構わないとの連絡を頂きました。これについても希望者で行くことになりますので、行きたい方は申し出てください。ただ可能な限り、全員で行きたいところですが……」


 これは以前の新人戦での報酬の話だな。

 あれ、まだもらってなかったのか。

 まぁ、こっちもかなり揉めてたみたいだし、時間確保が難しかったのだろうな。


「最後の一つは、これも《黒鷹》関連ですが……北海道の魔境についてですね。こちらについて、《黒鷹》より相談したいことがあるそうで、おそらくですが、調査についての依頼があると考えています」

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