第142話 瘴毒の迷宮
「……大丈夫と言ってたのは聞いてたけど……ちょっと、え、創、すごくない?」
「え? そうか?」
剣を振るいながら、俺は樹にそう答える。
油断しているわけではないが《瘴毒の穴蔵》の第一階層程度で、何か致命的に危険な魔物など出るはずもない。
おそらく、第三階層までもそうで、ボス部屋であっても今まで挑んで来た迷宮や特殊なボスたちと比べれば、そこまでではないのではないか?
一応、雹菜と一緒に何度も迷宮に潜っていて、三層程度であればもうかなり経験しているし。
まぁ、すべての迷宮の三層の魔物の強さがおよそ同じものだ、というわけではもちろんないけれど、第一階層の魔物の種類や強さ、それに迷宮の規模や感じられる魔力などを総合してみれば、大体分かるものだ。
「そんな片手間で簡単に倒せる魔物じゃないはずなんだけど……それ、パラライズゴブリンじゃないか。持ってる武具には大体麻痺毒が塗ってある、結構やばいやつ」
俺が今、切り伏せた魔物を見て、樹がそう言った。
パラライズゴブリンが手に持った短剣には確かにぬらぬらとした粘性のある液体が塗られていて、これに触れれば麻痺などの状態異常にかかることは察せられた。
だが……。
「別に当たらなければいいだけだしな。気づく前に近づいて倒すか、かかってきたところを一撃で切り伏せればいいだけだ」
「簡単に言うけど……いや、君にとっては簡単なんだろうね。もうそいつで七体目だもの」
そう、これで俺はもう、七匹のパラライズゴブリンを倒していた。
立て続けに襲いかかってきたのでほぼ流れ作業に近かった。
最初の方は、俺が麻痺などにかかったときのことを考えてか、樹は治癒系スキルを使うべく警戒して後衛に徹していたが、俺の戦う様子を見て、その心配はかなり少ないと理解したらしく、肩の力が抜けている。
それでも全く緊張感がないというわけではないけどな。
「さすがに第一階層くらいでもたもたしてたら三層なんてたどり着けるわけもないしなぁ。それに、これくらいのこと、うちのギルドの面子なら全員普通にこなせるぞ。スピードだけだと俺が一番遅いと思う」
慎は多対一の戦闘が得意だし、美佳は一撃ですべて焼き尽くす《炎術》がある。
雹菜はいわずもがな、何で戦っても一瞬で終わるだろう。
俺は結局、アーツしか使えないために、切り替えが今一まだ滑らかではない。
スキルはそういうのが得意なのだよな。
ただ、単一の技であればスキルよりも早く出せるのだが……まぁこの辺りは修練あるのみだろうな、という気がしている。
ちょっとずつスムーズになってきてはいるからそこまで心配はしていない。
「君のギルド、リーダーが有名だからほかの人たちはあくまでもそれに集まってきた普通か少し優秀くらいな人たちなんじゃないかなって思ってたんだけど……とんだ化け物の集まりみたいだね。だって、創以外もE級が二人なんでしょう? それなのに」
「あぁ、俺の幼なじみだけどな。あと、顧問のおっさんが一人いるけど……あぁ、その人は治癒術士だぞ」
「そうなの?」
「守岡っていう……」
「えっ!? あの!?」
「ってみんなが言うくらいには有名らしいな。うさんくさい店を構えたおっさんにしか見えないけど、なんか人生経験半端ないもんな……あっ、また来た」
再度、パラライズゴブリンが走ってきたので切り伏せる。
弱くはないとは思うのだが、動きが雹菜とかと比べると大ぶりすぎて、急所も簡単に狙えるんだよな……。
「……この調子じゃ、僕たちが一番乗りかもね」
「ボス部屋までか? そうだといいんだけどな。そうすりゃ、合格間違いなしだぜ」
そうして、俺たちの攻略は進んでいく……。
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