115 伝書鳥、ルフ①

 マナトは何度か頷いていた。


 「そうか、うん。……そうだよな」


 なにか、自分の中にあるものを確認するかのように、独り言を繰り返すと、やがて、マナトはステラを見て、言った。


 「僕が、いま、一番欲している欲求かもしれないです」

 「ウフフっ」


 ……正直な子。


 「どう?他に、なにか分からないところとかはない?」

 「あっ、そうですね……」

 「ステラ~」


 書庫の扉のほうから、長老の声がした。


 「は~い」

 「帰ってきとるみたいじゃぞ~、止まり木探して村の上を旋回しとるらしい~」

 「分かりました!いま、行きます」

 「伝書鳥ですか?」


 長老の言葉を一緒に聞いていたマナトが、ステラに聞いた。


 「そう。そういえば、伝書鳥、見たことある?」

 「いや、ないです」

 「それじゃ、見せてあげよっか!」

 「えっ、いいんですか?あっ、でも、木片の書簡の書き写しがまだ……」

 「いいからいいから!」


 ステラはマナトを連れて、書庫を出て、長老のいる居間へと早足で戻った。


 「おう、ステラ、んっ?マナト?」

 「長老、ちょっとマナトくん、借りていきますね!行くよ!マナトくん!」


 長老に言うや否や、ステラはテーブルの上の封書をつかんで、同時にマナトもつかんで出ていってしまった。


 「えっ?あっ、そう、はい、行ってらっしゃい」


     ※     ※     ※


 村の上空、一匹の鳥が円を描いて旋回している。


 「あっ、あれですか!」

 「そうよ!」


 長老の家を出たステラとマナトは、すぐ近くにあるマナトの家サイズくらいの小屋に入った。


 小屋の中には笛と、滑車のついている、Tの字に丸太を組み合わせただけの、簡単な止まり木があった。


 「えっ?これに止まるんですか?」


 太い幹の丸太が丸々一本使われているのを見たマナトが、ステラに言った。


 「そう。あのコ専用の止まり木なの。よいしょ~!!」

 「あっ、手伝います~!!」


 滑車がついていても、なかなか重い。


 その止まり木を、住宅街の少し開けた場所まで持ってきた。


 「誰もいないわね?……よし!それじゃ」


 滑車が動かないように固定したステラは、小屋にあった笛を鳴らした。


 ――ピュイ~!


 ――ピュアァァ!!


 笛に反応したかのように、上空の鳥が鳴いた。


 鳥が、上空から滑空し、こちらへ迫ってくる。


 ――ヒュー!!


 風を切る音とともに、鳥の姿がどんどん近く、大きくなる。


 「えっ?……えっ!?」


 マナトはその光景を見て、2度声をあげた。


 「マナトくん!何かにつかまって、足踏ん張ってね!風圧で吹き飛ぶわよ!」

 「はっ、はい……!」


 ステラが言った次の瞬間、


 ――ブワッサアァァ!!


 鳥が翼を羽ばたかせた。


 同時に、暴風のような風がその場所に巻き起こった。


 「うおおおお!?」

 「大丈夫よ!」


 吹き飛びそうになるマナトの手を、ステラの手がしっかりと握っていた。


 ――ブワッサァ!ワッサァ!ワッサ。


 何度か羽ばたいた鳥は、その都度風を起こしながら、止まり木に止まった。


 「これが伝書鳥、ルフよ」

 「ハハハ……」


 その鳥を見たマナトが、苦笑まじりにつぶやいた。


 「デカすぎでしょ……」

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