443 マナト達の馬車の中にて

 ――ガラガラガラ……。


 2台の馬車は皆を連れ、依頼者のもとへと向かっていた。


 「マナトお兄ちゃん、ターバン被るようになったの?」


 マナトとミトの向かいに座っているニナが聞いた。


 ニナの隣には、サーシャ。さらにその隣には、召し使いが座る。3人だと少し狭くなりがちだが、ニナがお子さまサイズのため、問題なさそうだ。


 「そうなんですよ。僕の姿で、ジンになにをされるか分からないので」

 「そっかぁ」

 「たしかに、マナトさんは顔を隠すくらいの対策は、しておいたほうがいいですわね」


 召し使いも言った。


 「でも、よくお似合いですわ」

 「ありがとうございます」


 ……召し使いさん、ムハドさんのことが。


 シュミットの言っていたことが、マナトの頭に、一瞬よぎった。


 ――ガラガラガラ……。


 「……ごめんなさい」


 医療棟から出発して、そこそこ時間が経過した後、サーシャが、向かいに座るマナトとミトに謝った。


 「私のせいで、依頼者のところに行くの、遅れてしまって……」

 「あぁ、いえ。僕たちは、ぜんぜん」

 「大丈夫ですよ」


 マナト、また、ミトも、にこやかに、サーシャに返事する。


 「はぁ……」

 サーシャがため息した。


 「……」


 改めて、マナトはサーシャを見た。


 ……サーシャさん、落ち着いたみたいだな。

 マナトは思った。


 さっきまでのサーシャは、明らかに変だった。


 いつもの落ち着きは、まったく消え去り、向かいで座るこちらにすら、胸の鼓動が伝わってくるほど。


 「あなた達も……」


 また、サーシャは両側に座る召し使いとニナにも、頭を下げた。


 「そんな……」

 「お姉さま、大丈夫……?」

 「ええ、もう、大丈夫。あのコの話を聞いてたら、なんか、穏やかでいられなくなって……」

 「……」

 「だんだんと、聞いているうちに……というか、一緒にオアシスで釣りをしたあたりから、もう、聞いてられなかった」

 「……」

 「胸が締め付けるようで……なぜか、自分が、徐々に憐れに感じられてきて……」

 「……でも、ラクトさん、覚えておいででなかったですし、わたくしも聞いていましたが、どう考えても、現実離れした話だったように思いますわ」

 「うん……でも、あのコ、確信持っていた」

 「……」

 「はぁ……」


 サーシャのため息。


 「いったい、なにが、あったんだろうね……?」


 馬車の走る音でかき消えてしまうくらいの小さな声で、ミトはマナトに耳打ちした。


 「……」


 ……ぜったい、ウテナさんと出会ってしまったんだろうなぁ。


 ――ギィィィ……。


 身体に、慣性がはたらく。


 馬車が、止まった。


 「サーシャさま。どうやら、依頼者、イヴン公爵の公宮に、着いたようですわ」


 布をまくり上げ、外を見た召し使いが言った。

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