444 サーシャのドレス姿

 「サーシャさま、シュミットさんが、着替えを持ってきてくれておりますわ。……マナトさん、ミトさん、ニナ、すみませんが、先に、お降りになってくださいませ」

 「はい」


 召し使いに言われ、3人が、馬車から降りる。


 もう一台の馬車からも、シュミット、ケント、リートが出てきていた。


 「ここは、サーシャさまの依頼者の、イヴン公爵の公宮です」


 シュミットが、マナトとミトに言った。


 「ほえ~」

 「広いですね~」


 大きな鉄の門の手前には、鉄の甲冑を纏った護衛が4人、立っていて、その先には、歩きやすそうな背の低い芝生による緑の庭園が広がっている。


 庭園の右側には白い大理石で作られた、広く浅い水場があり、その中心では噴水が半円をつくっていた。


 そして、その庭園の奥にある、白い大きな玉ねぎ型の丸屋根と、随所にあるアーチ状の扉が特徴的な建物。 


 「むむっ!」


 ニナは、庭園に、興味津々のようだ。すぐに門に立つ護衛の手前まで走り寄って、門越しに庭園をキョロキョロと見渡している。


 「……」


 門に立つ護衛たちが、顔を見合わせている。ニナを完全に子供と思っているようだ。


 「岩石の村の者です」


 護衛たちに、シュミットは言った。


 「あぁ、そうでしたか」

 「ご依頼されていた作品の、納品で参りました」

 「分かりました。イヴンさまからも、通すように、言われております」

 「申し訳ございません。お伺いするのが、少々、遅れてしまいました」

 「ははは、律儀ですなぁ」


 護衛とシュミットは笑い合った。


 ……やっぱり、不思議な感じになるなぁ。

 マナトは思った。


 多少の遅れなど、このヤスリブの人々は、基本的には、なんとも思っていない。シュミットも、分かった上で、言っている。


 「……ところでシュミット殿、受注者はたしか、女性だったはずですが」

 「あぁ、もうじき……」


 護衛の問いに、シュミットが答えようとした、その時だった。


 ――ファサッ。


 馬車の布が、上がる。召し使いが、出てきた。


 「お待たせいたしました。……サーシャさま」

 「……」


 真っ白な、エキゾチックドレス。


 胸当ては、左肩と、両脇からとめるもので、腰から下は、股下ゆったりめのパンツ。


 右肩、また、胸当ての下は、その淡いピンク色の肌があらわになっている。


 その上から、白く透けるレースを纏い、それは腰の下あたりまで、サーシャを包み込んでいた。


 金髪の長い髪は右側寄りに、ゆったりめにとめられていて、むき出しの肩の上から垂れ下がり、頭上に乗っている白金色のカチューシャからは、白透明のヘッドドレスが、美しい顔の後ろで揺れている。


 手には真っ白な清潔感のある長手袋。右腕には、その手袋の上から、赤紫の、光沢のある飾り紐がつけられている。


 その飾り紐は胸の中心にもつけられていて、その真っ白なドレスの上にふさわしいアクセントになっていた。


 「う、美しい……」


 思わず、護衛たちはつぶやいた。


 「仕上がってるなぁ……」

 「本気じゃないっすか……」


 ケントとリートが、もはや、若干引き気味につぶやく。


 「……」


 サーシャの表情は、その琥珀色の瞳には、動揺の色はなくなり、もとの落ち着いたものに戻っていた。

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