445 公爵長公宮の庭園にて

 間もなくして、白装束の上に袖の長い黒ベストを着た、初老の男の執事が、やって来た。


 「ようこそおいでくださいました。岩石の村の、芸術家の方々」


 サーシャは合掌し、執事にお辞儀した。


 「これはこれは、まるで等身大のお人形。こんなに、お美しかったとは……」

 「……恐縮でございます」


 サーシャは、顔を上げた。


 「……」


 と、執事が、サーシャの顔を、まじまじと見ている。


 「まさか……」

 「……?」

 「……いえ、なんでもございません。失礼」


 執事はコホンッと咳払いすると、続けて言った。


 「……して、依頼した、ご作品のほうは?」

 「こちらでございます」


 執事の言葉に、召し使いが、前に出る。両手には、布に包まれた状態の、サーシャの描いた絵画が、大切に抱き抱えられていた。


 ちなみに絵画を立てるためのイーゼルは、ケントが肩で持っている。


 「結構でございます。さっ、お入りください。イヴンさまのいる部屋まで、ご案内いたしますゆえ。……馬車も一旦、庭園に入れておきましょう」


 執事と話しているうちに、門は開いていた。


 護衛たちの横を通って、一行は、公宮の敷地内へと入ってゆく。


 「すごい……」


 マナトの隣を歩くニナは、周りをキョロキョロしながら、時おり、足元にも目をやっていた。


 「なるほど、ここはこうなって……、この芝生、この踏み心地、全部同じ種類の……うわっ、あそこの植物、四角い……!」


 ニナはだんだんと、マナトの隣から離れ、一行の列からも外れてゆく。


 「あぁ、ちょっとニナさ……!」


 マナトが追いかけようとすると、ケントがイーゼルを抱えたまま、大股で歩いて、離れてゆくニナに追いついた。


 「よっと……!」

 「わぁっ!?」


 ケントが、ニナをもう片方の腕で抱え上げた。


 「こら、ダメだろ勝手に動いちゃ」

 「あぁ~ん!おろしてよ~!」


 ニナがケントの腕の中で、バタバタしている。


 「おいマナト!保護者のお前が、ちゃんと見といてあげないと、ダメだろ」

 「いやいや、保護者って……」

 「む~」


 ケントの腕にぶら下がったまま、ニナはケントを睨み付けた。


 「ボク、ハタチなんだけど~」

 「……はっ!?俺と3つしか違わねえの!?」

 「……えぇ!?ケントおじさん、23なの!?」


 2人で、ビックリし合っている。


 「お~い、なにやってんすか~、置いてくっすよ~」

 「あはは!いや、逆に、お似合いではないですか」


 リートの呑気な声と、シュミットの笑い声が同時に発せられる。


 「賑やかで楽しいですね」


 先頭を歩く執事が、隣で歩くサーシャに、朗らかに言った。


 「申し訳ございません」

 「あはは、なにも、謝ることはありません。我々のお仕えするイヴン公爵も、外では控えめなのですが……」


 玄関に、たどり着く。


 「自らの公宮内では、それはもう……」


 ――コン、コン。


 そう言い、執事は、塗装の施された、光沢のある木製の扉を叩いた。

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