446 公宮内、響き渡る声

 ――カチャッ。


 扉が開いた。


 召し使いの女性が、内側から、扉を開いて出迎えて……と、思った、その時、


 「お主ら!!なにをしておるか!!」

 「!?」


 扉が開くや否や、どこからか、老夫特有のしゃがれた声でありながら、老人とは思えないほど、はきはきとした大声が聞こえてきた。


 「こ、この声は……!?」

 「公爵の長、イヴンさまの、声でございます。……あっ、ちなみに今の声は、あなた達に向けられたものではないので、ご安心……」

 「民事訴訟が手つかずになっておるではないか!!」


 執事が、皆に言う間にも、それに被さるように声が聞こえてくる。


 「は、入っていいのか?」

 「お取り込み中じゃないっすか……?」

 「はい、お入りください。いつも、こんな感じなので」


 ケントとリートに答えると、執事は一行を中へ入れた。


 「おぉ……」


 公宮内に入ったマナトは、天井を見上げた。


 屋内は天井まで吹き抜けになっていて、とても高い。


 外から見えていた丸屋根の裏は、青と黄色と白のステンドグラスになっていて、降り注ぐ陽光を取り入れ、鮮やかにそれぞれの色を放っている。


 「……」


 視線を正面に戻すと、玄関入ってすぐのところに、彫刻が2つ、視線に入ってきた。


 「……えっ?」


 マナトはその彫刻を凝視した。


 ……人魚じゃないか!


 その彫刻は、マナトがキャラバンの村の、マナの洞窟で出会ったほうの人魚……では、なかった。


 上半身は、裸の、艶やかな人間の女性。そして下半身は魚のそれで、いわゆるマナトが思っていた通りの人魚の彫刻だった。


 ……そう、そう。こっちだよね、うん、うん。

 マナトは一人、納得していた。


 彫刻の奥には、赤い絨毯の上り階段が、2階、3階へと続く。


 「わっはっはっは!!」


 今度は、笑い声。どこから聞こえてくるのか分からない。とにかく、声が大きい。


 「わしがここにいないとでも思ったか!あえて、お主らには知らせておらんかったのだ!」


 声が発せられる度、建物内に鳴り響く。


 「……なに?この国は、いま、異常事態だと?そんなこと知っておるわ!」


 誰かと会話しているようだ。


 「……なに?どうすればいいか、だと?なにを言っとる!有事の時こそ、いつも通りにルーティンをこなさんか!対応を変えるのは市場の商人や護衛たちである!なんのためにお主らは、国事を預かっておるのだ!」


 老夫の覇気満々の声が、相手を押しに押しているのが分かる。


 「これからは、お主ら若い者らの時代ではないか!この国難においても、自ら立ち向かっていきたまえ!現場の最前線に行ってきたまえ!なんならジンに会ってきたまえ!」


 一瞬、声が止む。


 「……まあ、会いたいなんて思ってるヤツの前に、ジンが現れるとは思わんがな!わっはっは!!……なに?ぜんぜん面白くないだと!やかましい!さっさと行かんか!」


 ――バタバタ……!


 すると、2階の右側の渡り廊下から、執事たちが十数人、早足で下りてきた。


 「失礼!」

 「おい!緊急性のある訴訟はどれなのだ!?」

 「まずこれだ!」


 ――カチャッ!


 男たちは急ぎ足で一行の横を通りすぎ、扉を開いて外に出ていった。


 そして、少し遅れて、大柄な老夫が姿を現し、大股で階段のほうに歩いてきた。


 「むっ!」


 老夫が、階段の下……こちら側に気づいて、視線を向けた。


 「イヴンさま、お連れしました」

 「うむ!久しぶりだな!サーシャ!」

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