447 メロ共和国公爵長、イヴン=メネシス

 「えっ!?知り合い!?」

 驚いて、皆がサーシャを見る。


 「やはり、そうでしたか。このお方も、メネシス家の……」

 先導してくれた執事も、サーシャのほうに振り向いた。


 「……なぜ、私のことを……?」


 サーシャはその目を大きく見開いて、声の主を見つめていた。


 「なんじゃ?その目は。……さては、お主、覚えておらぬな!」


 その声に、再び、視線が集まる。


 遠目に見ても、明らかに背が高い。また、よく見る老人のように、腰が曲がってはおらず、背筋がピンとして、姿勢がいい。


 その大柄な身体は白装束で纏われ、黒に金色の装飾のついたベストを肩にかけていた。


 老人とは思えないほどの、堂々とした立ち姿だった。


 その額や顔にはしわが多かったが、そのしわの一つひとつが、彫りの深い、勢いと品格のある表情を演出し、かえって魅力のひとつとなっている。


 頭には、高貴な銀色のクーフィーヤを被り、そして、ギラギラに輝く、大きな、琥珀色に輝く瞳。


 サーシャと同じ色の瞳だった。


 声の主……公爵長のイヴンは頭に手を伸ばし、被っていたクーフィーヤを取った。


 そして自らの、長く真っ白なオールバックの髪の毛を、指差した。


 「この髪の毛を見ても、分からぬか!?」


 声は大きいが、口角の両端は上がり気味で、機嫌はよさそうに見える。


 「お主がまだ、アクス王国にいたとき……当時から白かった、この髪の毛のことを、お主は、なんと言ったと思う?」


 イヴンは、サーシャに言った。


 ……昔、アクス王国にいたんだ、サーシャさん。


 イヴンとサーシャを見比べながら、マナトは思った。


 「そ、その国名は……!」

 「言っては……!」


 ニナと召し使いがイヴンになにが言おうとしたが、それに構うことなく、イヴンは立て続けに言った。


 「雪の降り積もったような髪の毛と、お主は言ったのだぞ!」

 「雪の降り積もったような……?」

 「!」


 ……雪!

 久しぶりに、マナトはその単語を聞いたなと思った。


 「最果ての地で降るという、不可思議な綿のような水だというではないか!お主が言ったのだぞ!」

 「アクス王国……雪……ゆき……」


 サーシャは少し下を向いて、繰り返し、つぶやいた。


 「降り積もった……ような……」


 サーシャが、両手で、頭を抱えた。


 「サーシャさま!」

 「お姉さま、大丈夫!?」


 絵画を抱える召し使いとニナが叫ぶ。


 「……ええ、大丈夫」


 サーシャは少し顔色が悪くなっていたが、イヴンのほうへ再び向いて、言った。


 「……絵画の、納品に参りました」

 「……ふん!まあよい!」


 イヴンは、3階へと続く階段を上り始めた。


 「絵画をどこで飾るかは、その作品を見てからだ!一旦、3階で見るとしよう!上ってきたまえ!わっはっは!」


 言うと、イヴンは1段飛ばしで、階段をさっさと上がっていった。

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