442 修羅場、ウテナとサーシャ②

 「ケントさん、リートさん!俺、こういうのに出くわしたことがないっていうか、なんていうか、どうしたらいいんですか!?」


 ウテナとサーシャの間に挟まれたラクトが、懇願するように言った。


 「な、なんてことだ……」

 「ラクトくんが……まさか、そんな……」

 「け、ケントさん?リートさん?」


 ケントとリートは、ただただ、呆然としてしまっていた。


 ……めっちゃ、モテとるやんけ。


 「さ、サーシャさま、シュミットさんやリートさん達も来ましたし、そろそろ、納品に向かわないと……!」


 サーシャの肩にしがみついている召し使い言った。


 だが、サーシャは動く気配がない。依然として、ウテナをにらみつけている。


 「……この人が自室に戻るまで、行けない。ラクトが、迷惑するもの」

 「はぁ!?なんですって!?」

 「う、ウテナさま落ち着いて……」


 ウテナの服の袖を掴んでいるミリーが言った。


 「さすがに戻らないと……!あまり外出しないように、お医者さんからも、諜報側からも言われているのであります!」

 「い~や!」


 ウテナが叫んだ。


 その時、


 「あっ、ここにいた!」


 部屋の扉のほうから、声がした。


 見ると、背の高い、茶褐色の長い髪の、目付きの鋭い三白眼の女性が立っている。


 「ら、ライラ先輩……!」


 その女性を見たウテナが、ビクッとして言った。


 「みんな、いたわよ!」


 ライラは扉の外に向けて叫ぶと、部屋に入ってきた。


 すると、続けて3人、入ってきた。


 「おいウテナ!勝手にどっか、行くんじゃねえ!」

 「お、オルハン先輩……」

 「いたいた。ダメじゃないか、ウテナ」

 「ふぇ、フェン先輩……」

 「まったくもう……」

 「フィオナさん……」


 入ってきた4人は、あっという間に、ウテナを取り囲んで羽交い締めにしてしまった。


 「ちょ、ちょっと、まだこの女と決着が……!」

 「ダ~メ」


 ウテナが言おうとしたのを、フィオナが遮る。


 「勝手に出歩いちゃいけないって、言ったでしょ」

 「い、いやでもミリーと一緒に……!」

 「はいはい、連れてくわよ~」


 ライラが言うと、4人でほとんど、ウテナを抱き抱えるようにしてしまった。


 「ケント、お邪魔したわね」


 ウテナの肩を抱きながら、フィオナが言った。


 「……」

 「ケント?」

 「まだ!まだなの~!」

 「ちょ、こら……暴れないの!」


 ウテナがバタバタしている。


 すると、ミリーが、サーシャの召し使いとニナに、しきりと目配せした。


 ……そちらのお方も、いま、このタイミングで!!


 「!」

 「!」


 召し使いもニナも、ミリーのアイコンタクトを理解した。


 「お姉さま!納品いこ~!」

 「サーシャさま!それじゃ、向かいましょう!」

 「えっ、で、でも……」


 ……シュミットさん!


 「むっ!承知!」


 召し使いの視線による訴えに、シュミットが動く。


 「お迎えにきましたサーシャさま!さあ!行きましょう!」

 「あぁ、ちょ、ちょっと……」


 サーシャの背中を、グイグイとシュミットが押した。そのまま、無理矢理、部屋の外へ。


 2人とも、それぞれの者達に連れられ、ラクトの部屋を出ていった。


 「……」

 「……」


 残ったのは、ケントとリート。そして、ラクト。


 「……フゥ~」


 緊張から解き放たれたように、ラクトが安堵のため息を漏らした。


 「なんだったんだ……マジで」

 「負けた……」

 「えっ、なにがですか?」

 「……とりあえず、一発だけ殴っていいっすか?」

 「えぇ……?」

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