441 修羅場、ウテナとサーシャ①
数人は泊まれそうなくらいな広さのあるその部屋は、大きな窓から差し込んだお昼時の強い陽の光で明るく照らされている。
そして、そんな明るい部屋の中、よく見える2人の女性の表情は、双方とも、完全に敵を目にしたときのそれになっていた。
「あ、あの、ちょっと、ウテナ、サーシャ……?」
寝台の上で上半身だけ起きているラクトが、2人の女性を交互に見ながら、おろおろとした表情で言った。
「ちょっと、邪魔しないでもらえるかしら?」
黒髪ショートカットに、赤茶色の瞳。漆黒の、身体のラインの分かるワンピース姿……ウテナが、目の前の女性に言った。左腕は、手首から、包帯でぐるぐる巻きになっている。
「……ラクトの邪魔をしているの、あなたでしょう」
金髪ストレートロングに、琥珀色の瞳。淡いピンクの、腰下からは少しフワリとしているドレス姿……サーシャが、ウテナに言い返した。
「……さっきから、ラクト、覚えていないって、言ってるじゃない」
「だから、あたしがその時のことを話してるんだけど!」
「でも、ラクトは覚えてないと言ってるじゃない」
「違うわ!一緒に馬車に乗って、砂漠を旅したのよ!」
2人が言い合っている。
「う、ウテナさま……」
「さ、サーシャさま……」
「お、お姉さま……」
ウテナとサーシャの、それぞれの傍らにいる、諜報員ミリーと、召し使いとニナが、心配そうに2人の口論を見守っている。
「さ、サーシャ、ちょ、ちょっと、いいか?」
ラクトがおずおずと、口を開いた。
「う、ウテナさ、俺、天廊でお前に出会った時までは、ホント、ちゃんと覚えてるんだぜ。天廊でお前に会って、えっと、そんで……アレだよ、その時行動していたマナトが、ジンだと分かるまで」
「その後その後!」
「いや、そこからは、覚えてなくて……たぶん、失血で気を失ったんだろうけど、気がついたら、もう、ここに……」
「も~うなんで忘れてんのよ~」
ウテナが項垂れるように、肩を落とした。
「……あなたが気を失っているときに見た夢よ」
「違うわ!」
「……あなた、傷を負っているんでしょう?自分の部屋に戻ったら?」
「いやアンタだって予定あるんでしょ!?さっさとその用事済ませに行ったらどうなのよ!さっきから見せびらかすように、ラクトに触れたりしちゃって!」
「……別に、見せびらかせてないわ」
「いちいち出てるのよ!女としての意識が!」
「……包帯変えてるだけよ」
サーシャが言った。
「それに、あなたには、関係のないことでしょ」
「なんですって……!」
ウテナから、ものすごい殺気が出ている。
――スッ。
腰が下がる。
「ちょちょちょウテナさま!?」
ミリーが慌ててウテナの袖を掴んだ。
「……」
サーシャも応戦の構え。
「お姉さま!?」
「いけませんサーシャさま!!」
ニナと召し使いがサーシャの肩と足にすがりついた。
「な、なんだこれ……」
「どういうことなんすか……」
呆然と、ケントとリートはその光景を見て、顔を見合わせた。
「こ、これは……」
扉を開けたシュミットも、そのまま立ち尽くした。
「……あっ!」
3人に、ラクトが気づいた。
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