557 ガスト、歩きながら/その目に映ったもの

 ……フッ、我ながら、クソしょうもない、企みだ。


 盛り上がっている仲間たちとは裏腹に、皆に言うことはないが、心のどこかで、少し自虐的にガストは思う。


 こんなことをしても、多少の憂さ晴らしにしかならないことは、分かっていた。


 ……だが、それでいいんだ。


 その行為に大した意味はなくても、かといってなにもしないことは、それはもはや、敗北でしかないと思った。


 だから、あの夜、酔った勢いで、ジンに宣戦布告するつもりであんなことをした。


 小さな反抗でも、ちょっとした抗いでも、自分達にとっては、大きな革命なのだ。


 自問自答の中で、自らの冴えない頭でひねり出した、答え。


 《いいんじゃねえか?お前らの好きにしろよ》


 かつてのオルハンの声が、ガストの脳裏によみがえる。


 《俺もお前らくらいの年頃は、そうしてたからな、はは!》


 あの時、オルハンはただ、笑っていた。


 「……」

 「どうした?ガスト?」

 「あっ、いや、なんでもねえよ」


 やがて、大通りを抜け、巨木エリアへ。


 「……んっ?」


 巨木エリアをしばらく進んとき、巨木と巨木の間に、土色の大きな3角錐が見えた。


 「……で、デカい」


 近寄ると、その大きさは林立する巨木を越えていた。


 「……」


 圧倒され、ガスト達は呆然として巨大テントをしばらく見上げた。


 そのテントの中から、わぁわぁと喧騒が聞こえてきた。


 「……あっ、これたしかキャラバンテント、だよな」

 「だな。この中で、キャラバン達が集まって、大会かなんかやってるっていう」

 「そういや、あれだよ!前にたしか、どこかの商隊の隊員が重傷を追って、医療棟へ担ぎ込まれたりして……」

 「あぁ、あったあった」

 「あと、ウテナっていう……」

 「あぁ、あの人な~」


 キャラバンについての世間話を仲間たちは始めた。


 キャラバンは、ここ最近、メロ国内の若者の、一番の人気職業といっていい。話題も多かった。


 ただ、中には、所詮、資源の少ない小国がやる職業だという認識を持っている者達も少なくなく、危険だ、やるべきでないなど、賛否の声は常にある職業でもあった。


 「……てか、オルハン先輩、中にいるんじゃね?」

 「!」


 ガストは仲間たちを見た。


 「ちょっと、寄り道してくか」

 「だよな!」

 「間違いない」


 皆、考えてることは、一緒のようだ。


 巨大テント入り口へ。誰もいない。


 「これ、誰でも入っていいんじゃね?」

 「いやもう入っちまおうぜ」

 「入ろ入ろ」


 中へ。


 ――パアァァ……!


 「おぉ……!」

 「な、なんだこれ……!」


 すぐ目に入ってくる、中央のステージ。


 その天井には、たくさんのマナのランプが取り付けられ、オレンジ色の光が燦々と、ステージとその周りに降り注ぐ。


 ――わぁぁ~!!


 そして、そのステージにさらに注がれる、視線と歓声。


 「すげぇ……!」


 今まで、ガストが一度も、見たことのない光景だった。


 「おぉ!!きたきたきた~!!」

 「あはは!なんだ!ターバンしてるぜ!」


 近場のキャラバン達の声が聞こえた。


 声援を受け、ステージの上手側から、ターバンを深く被った男が姿を現した。


 「ガスト!おい、あそこ!」

 「!!」


 ステージ下手側。


 光沢のある深緑の肩掛けを羽織って、金色のパンツを履いたオルハンが、姿を現した。

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