558 決勝戦第一試合/オルハンVSマナト①

 ガスト達は、少しでもステージ近くでオルハンを見ようと、いけるとこまで足早に歩を進めた。


 ――わぁ!わぁ!


 誰も、ガスト達を止める者はいない。すでにほとんど無法状態と化していて、皆、客席の規制線ギリギリまで寄ってたかって、これから始まるなにかに期待している。


 「オルハン頑張れ!!」

 「マナトくんは強敵よ!!前のようには、ぜったいにいかないから気をつけて!!」

 「でもぜっっったい勝ちなさいよ!!」


 ステージ上手から気合いの入った声が、オルハンを後押ししていた。


 ――グッッ!


 その声に答えるように、オルハンは振り向かずに腕だけ横につき出して、親指を立てた。


 ――おぉ~!!


 オルハンのパフォーマンスに、会場が沸く。


 対する、ステージ下手側。


 「やっぱり、アイツ出てきたなぁ。オルハンだっけか」

 「マナト~頑張れ~!」

 「生きて戻ってこいよ~」


 ステージに立った、ターバン姿の男に、声援が送られている。オルハンの仲間に比べると、幾分か、落ち着いた感じだ。


 「おい!マナトだっけか!今度は、ちゃんと戦えよ!」

 「そうだぞ!ずっと逃げてばっかとか、なしだからな!」


 周りの観客からも、野次のような声援が飛んだ。


 「……」


 そして、ステージに立つマナトと呼ばれた男は、すこし微笑んで、小さくうなずいたのみだった。


 ターバンを深被りしているため、あまり表情は分からなかった。


 だが、そのターバンの下に隠れがちな目は、確実にオルハンに注がれていることだけは、分かった。


 これから、なにが始まるのか……この観客の盛り上がり、そしてステージ上の2人……これまでの経緯を知らないガスト達にも、察するに余りあった。


 「……なんつ~か、気合いではまさってるよな!」

 「ああ!俺たちも、オルハン先輩応援しようぜ!」

 「当然だろ!」


 ガスト達が、お互い言い合ったときだった。


 ――シャキ……。


 「!」


 ターバン姿の男……マナトが、腰につけているダガーを抜き、ステージ中央へ。


 ――スッ。


 そして、ダガーを前に差し出した。


 「……あいさつは、いらねえ」


 オルハンが口を開いた。


 「先手はお前にくれてやる、マナト」

 「……」

 「勘違いするな。前回、俺は、勘違いとはいえ、お前に不意打ちで挑んだ。だから、今回はお前の番、ただ、それだけだ」


 淀みなく、しかし低く、なにか自らを抑制するような、そんなオルハンの口調だった。


 「……」


 オルハンに、マナトはすこしうなずいてみせ、ダガーを戻すとすこし下がった。


 「待っていたぜ、この時を……思い残すことなく、やってやる。……さあ、どっからでも、かかってこいよ!!」


 オルハンが両手を広げた。


 「か、かっこええ……」

 「ヤバい、鼻血出そう……」


 ガストも仲間たちも、オルハンの雄々しい姿に、尊敬する先輩の大舞台に、ただただ感動していた。


 だが次の瞬間、


 ――シュルルルル……!!


 「……えっ!?」


 マナトの腰あたりから、水流。マナトの身を纏うようにらせんを描いて下から上へと上昇する。


 「あのターバン野郎、オルハン先輩と同じ……!?」


 ――シュォォオオオオ!!


 マナトが左手をかざすと同時にその水流がオルハンへと襲いかかった。

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