556 ガストの企み

 「護衛ら全員に言ってやりてえよ。血の確認の前に、ちゃんと、前に確認してるかどうか覚えとけって!」

 「うわマジでそれ!俺も2日連続でされたとき、マジでそれ思った」


 仲間たちが、それぞれ不満を口にした。


 「……」


 ガストは無言で、耳を傾けていた。


 実際、仲間たちの言うことは、ガストにも十分、理解できるし共感できるものだった。


 もちろん、いまの国の混乱の、根本の原因にジンの存在があるということは、重々承知している。


 だが、ジンに実害を被っていないガスト達にとっては、それに影響を受けてしまって、乱れ気味になってしまった護衛、また場合によっては家族といった大人達のほうが、十分に実害だった。


 話しているうち、誰ともなく立ち上がっていた。


 そして、わいわいと、外へ。


 細い路地を抜け、大通りへ出た。


 「んっ?」


 先の、ガストがスルーした、懐からナイフを取り出して護衛に飛びかかった男が、護衛数人に取り押さえられていた。


 その男はどこかしらを切られていて、衣服の所々に、血がついていた。


 ――ポタ、ポタッ……。


 その傷からであろう、赤黒い血が身体をつたって地面に落ちている。


 それは明らかに、血の確認以上の……必要以上の傷による、流血。


 人だかりも、少しだけできていた。ただ、ものすごく遠巻きに、その光景を見守っている。


 「……ひどくね?」


 ガストの後ろにいた、仲間の一人が言った。


 「なにも、あんなに傷つけなくてもいいじゃねえかよ……!」

 「そうだ、血が確認できれば、それ以上傷つける必要はないはずだ……!」

 「……まあ、先に仕掛けたのは、あの男では、あったからな」


 冷静に、ガストは言った。


 「見てたのか?ガスト」

 「ああ。俺が来るときに、ちょうど、護衛に飛びかかっているとこは見た」


 護衛の中にも、少し負傷している者もいるようだった。血が出ている者がいる。


 「……」


 と、護衛の一人がガストらに気づくや否や、目を細め、睨み付けてきた。


 「あぁ?なんだおっさ……」


 ――ガシッ。


 仲間の一人が護衛に絡んでいこうとするのを、ガストは肩を引っ張って無理矢理止めた。


 「すみません」

 「ンググ……!」


 つっかかろうとした仲間を抑えながら、ガストは前に出て謝った。


 「おい、いくぞ」

 「……あいつら、今度、血の確認が必要だな。次に会ったとき、ジンかもしれない」


 護衛数人が、男を連行してゆく中、先に睨み付けてきた一人が、小さい声ではあるものの、ガストらにも聞こえるように、言った。


 「俺たちもいこうぜ」


 ガストは言うと、大股に歩き出した。


 「チッ!やっぱムカつくぜ……!」

 「だな。……ところで、ガスト、どこに向かってんだ?」

 「ちょっと巨木エリアにでも行こうかなと」

 「巨木エリア?」

 「ああ」


 歩きながら、ガストは振り返った。


 「巨木エリアに、増設されたラクダ舎の横に、馬屋がたしかあったよな?」

 「ああ、あったと思うけど……」

 「あそこにさぁ、たしか、普段は穏やかだけど、背中に人が乗ると急に暴れ出す馬がいたはずでさぁ、」


 ガストは自然と、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。


 「その暴れ馬の背中に、さっきのムカつく護衛をくくりつけてやろうぜ」

 「……あはは!!それ最高じゃねえか!!」

 「想像しただけでおもれえじゃん!」

 「いいねぇ!さんせ~い!」

 「そのまま大通りを練り走らせようぜ!」


 ガストを先頭に、嬉々として、皆、巨木エリアへと歩を進めていった。

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