555 仲間うちでの合図

 ゲームは、中盤へ。


 「よし、これ」


 ガストがカードを繰り出した。


 「盗賊か。でも商人つかってないから、無効だぜ」

 「んなこたあ分かってるよ。あとこれ捨ててっと……」

 「よし!おっ!」

 「ん~?」

 「あっ、いや……」


 ……いや、今のは、演技の可能性もあるな。


 相手の表情を伺いつつ、ガストは思った。このゲームは心理戦でもある。


 「……んじゃ、俺はこれ捨て。……おいガスト、お前、まさかあのカードを、さっき引いたな?」

 「さあね」


 さあらぬ顔して、ガストはカードを一枚引いた。


 「さて……ここからだな、指名手配」


 ゲームの後半戦。


 指名手配という、相手の持っているカードを当てる権利が与えられ、当てることができると、そのカードを捨てさせることができる。


 手持ちは3枚まで。


 つまり、ここから最短で、3枚すべて当てることができると、その時点で勝ちとなる。


 そして、相手の手札をゼロにしたほうの勝ち。


 「いくぜ。まず、商人!」

 ガストは言った。


 「確認しま~す!」


 別の一人が立ち上がった。ガストの相手の手ふだを見る。


 「はい!商人ありま~す!」

 「……まあ、仕方ねえな。一回目は」


 そう言うと、相手は当てられた商人のカードを一枚捨てた。


 ……ふむ、人魚のカードが1枚も出ていないが、あれは2枚しか入ってないし……どうだろう、もし手ふだに入っているなら、……いや、もしくは?


 さらにガストは考えを巡らせる。


 ……捨てカードは、……いや待て待て。あのカードがまだ……!


 「俺も指名手配。ガスト、公爵持ってるだろ」

 「当たりだ」

 「よし」

 「まあ、さっき諜報員使ってたからな」

 「へへ」

 「……んじゃ俺も、もう一枚、指名手配いくぞ。商人!」

 「マジか……当たりだ」

 「おっけ、リーチ!」

 「俺もいくぞ!人魚だ!」


 ガストは手持ちの2枚のカードを、第三者の仲間に見せた。


 「入ってませ~ん!」

 「マジか外したぁ~!」


 ……あのカードの可能性が高い。が、五分五分といったところではあるが。


 ガストは相手の、最後の一枚を見据えた。


 「よし、指名手配……商人!」

 「……」


 ぷるぷると、相手のカードを持つ手が震えた。


 ――ペラッ。


 相手がカードを表向きにして、テーブルの上に置いた。


 「商人のカード!!」

 「はい~!!ガストの勝ち~!!」


 ――グッッ!


 テーブルに置いてあった酒を、勢いよくガストは飲み干した。


 「……あぁ!勝ち酒うめ~!」

 「おいガスト!なんで分かったんだよ!?」

 「いや、半々だったけどな!お前が一度でも商人を指名手配していたら……って、ヤツだ!」

 「あぁ~そこかぁ~!」

 「よし!ガスト、今度は俺だ!」


 勢いで、さらに数戦おこなう。


 これ以上あるのかと思うほどの時間だった。気の合う仲間だけで繰り広げる、ただただ楽しい時間を過ごす。


 ガストはこの時間が、なにより大好きだった。


 だが、これで終わりではなかった。


 皆にも、酒が回る。


 「へへ、あったまってきたぜ……!」


 仲間の一人が言った。


 「なあ、あったまってきたよな!?」

 「おう」

 「ああ」

 「あったまっちまったよなぁ……!」


 これは、これから外に出て、なにか、やらかしてやろうぜという、合図。


 いまなら、なんだってできる気がする……そんな空気が満ちていた。


 「俺さ、やっぱ、なにより護衛が気に入らねえんだよ!」


 仲間の一人が怒り気味に言う。


 「ああ、分かるぜ」

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