554 ガスト、仲間との時間

 ガストは空き家に入った。


 「おう、来たきた!」

 「いま、一戦終わったとこだぞ!」

 「次の対戦相手、ガストな!」


 皆がガストに声をかける。人数は10人弱で、大小さまざまなイスに皆、腰かけていた。


 そして、部屋の中央には、小さな木のテーブルが一つ。


 どれも、そこいらで捨てられていたものを拾ってきたものだ。


 ――シャッシャッシャッ……。


 おそらく先の勝負で勝ったであろう仲間の一人が、テーブルの前に座って、十数枚ほどのカードの束をシャッフルしていた。


 最近メロの国で流行っている、何ターンか続けて、その間に交換したり、手札を見たりして、最終的に相手の持っているカードを当てて捨てさせいき、ゼロにしたほうが勝ちというゲームだ。


 「……」


 ガストは、カードをシャッフルしている仲間の右腕を見た。包帯が巻かれていた。


 他の、ここに集まっている皆にもそれは見られ、中には包帯を巻かず、その傷を晒している者もいた。


 ガストだけではなく、皆、血の確認を、家族やら、護衛やらに、やられていた。


 「そんじゃあガスト選手、前へ~!」


 ゲームを取り仕切っていた仲間が、煽り口調で、テーブルの前に座るように促した。


 「おい、酒、用意しといてくれよ」

 「おいおい、二日酔いじゃねえのかよ?」


 テーブル前に座るガストにそう言いながらも、仲間の一人はテーブルに小さなコップをトンッと置いた。飲ませる気満々だ。その仲間は酒屋のせがれで、こっそり家からくすねきていた。


 「二日酔いには、重ねて飲むのが一番効くんだよ」

 「はは!迎え酒だな!」

 「おうよ。勝ったら、もらうぜ!」


 ――シャッシャッ……。


 「お前も、腕、切られてんだな」


 ガストの向かいに座っている、先にゲームに勝利し、カードをシャッフルしている仲間が言った。


 「んっ?ああ、そうだな」

 「ほんと、嫌んなってくるよな~」


 そして、カードの束をテーブルに置いた。


 「せめて、鍼灸用の針、もっと用意するべきと思わね?そういうとこなんだよなぁ、公爵たちの目が回ってないとこって……そのくせ、自分たちは鍼灸用の針をゴッソリ持ってるって話じゃねえか……!」


 愚痴であることは分かっているのだろう……それでも、仲間はぼやくように言っていた。


 「いや、さっさとジン倒せやって感じだろ、根本的に」


 ガストは言いながら、カードを3枚めくった。


 「はは、違いねえ。その通りだわ、ガスト」


 相手も3枚めくりながら、うなずいた。


 「……」

 「……」


 ……ふむ、商人のカードか。


 ガストも相手も、思考はゲームのほうへと移る。


 「どうする?先手はお前にくれてやる、ガスト」

 「ふむ……」


 一瞬、相手の表情を確認。目線は、こちらには向いていない。自分が引いたカードを見ている。


 「いまの手ふだのままじゃあ、ダメだろ?」


 ガストはふっかけてみた。


 「さぁ、どうかな?」


 ……使うか。


 「商人」

 「おけ。シャッフルして……ほい」

 「じゃあ、これ!うわいらね……」

 「へへへ、ざまみろ。俺は一枚引くぞ」

 「このまま捨てるしかない……」

 「んじゃ俺だな。……俺はこれ使う」

 「諜報員かよ!ぜんぶ公開かぁ……はい」


 ガストが自分の手ふだを相手に見せた。


 そうして、ゲームは進んでゆく。


 もう、家での出来事とか、道中で見た光景とか、ガストは忘れていた。

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