409 マナトとミト、宿屋内の一室にて

 「これが、クルール地方」

 「うん」


 宿屋内、マナトの一室で、マナトとミトは寝台の上に敷いた布団の中に、一緒に入っていた。


 「クルール地方と隣接してるのが、ラハムとムシュマ、だね」

 「うん、うん」


 交易中に読もうと思って家から持ってきた本を広げて、そこに描いてあった地図を、マナトは指差した。


 「ラハムの先に隣合っているのが、クサリクと、ムハド大商隊が行ってきたっていう、ウームーか」

 「うん、うん」


 マナトの言葉に、ミトがうなずいている。


 「ムシュマ方面だと、ええと、ウガルと、ミトの故郷のあるウシュムか」

 「そう、そう。でも、この地図、クサリクとかウームーのほうは詳しく描いてるけど、ウシュムの方面は、ちょっと……」

 「たしかに。国の名前、あんまり、書いてないね」

 「うん」

 「これ、前にムハド大商隊が交易で手に入れたっていう、ウームーの書物だから、ウシュムとか、そっちの方面には、疎いのかも」

 「あぁ、なるほどね~」


 本に書いてあった地図を見ながら、2人であれこれとしゃべっていた。


 ミトはムハドから指示を受けて、マナトと一緒に、同じ一室で宿泊するようにと、指示を受けていた。


 ムスタファによって、ジンがマナトに化けられていることを知ったムハドが、倉庫からの帰り道、マナトが一人にならないようにするために、2人に提案していた。


 「いや~、なんかこういうのも、楽しいね」


 しばらく話すと、無邪気にミトが言った。


 「だね。それに、助かるよ。一緒にいてくれると、僕も安心だし」

 「なんの、なんの」

 「ホント、ビックリしたよ。僕のこと知ってる人が、何人もいるっていう……」

 「まさか、ジンに化けられていたとはね……」

 「いつ、どこで、接触していたんだろう……ホント、ぜんぜん、心当たりないんだよね」


 困ったように苦笑しながら、マナトは言った。


 ――コン、コン。


 誰かが、扉を叩いている。


 「あっ、はい。開いてますよ~」


 マナトが言うと、扉が開いた。


 「……」


 サーシャが開いた扉から、顔を出した。


 「あぁ、サーシャさん、どうも」

 「こんばんは」

 「……仲、いいわね」


 2人で一つの布団に入っているマナトとミトを見て、サーシャは言った。


 「それで、どうしました?」

 「……ラクトが、いないの」

 「ラクトが?」

 「……見てないかしら?」


 マナトとミトは、顔を見合わせた。


 そして、サーシャに向き直る。


 「倉庫行って、シュミットさんの完成した十の生命の扉の彫刻を見て、戻ってきてからは、ミトとはずっと一緒にいたけど、ラクトには、会ってないですよ」

 「僕も」

 「そう……」


 サーシャは言うと、少しうつむき気味になった。


 「ラクト、個室に、いないんですか?」


 マナトが問うと、サーシャがうなずいた。


 「……なんだか、胸騒ぎが、するの」

 「胸騒ぎ?」

 「いや、気のせいかもしれないし……もしかしたら、他の部屋にいるのかもしれないけど……」

 「……そうですか」


 マナトとミトは起き上がった。


 「探してみようか」

 「そうだね」

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