410 個室訪問

 「どうする?マナト」

 「まあ、さすがに外には出てないと思うんだけど……」


 話をしながら、2人は個室を出た。


 「他に個室は見て回りました?」


 マナトはサーシャに問いかけた。


 「いいえ。ラクトの個室に行った以外は、ここが、はじめて」

 「そうですか。……とりあえず、誰かの部屋にいるかもしれないので、ちょっと、あたってみますか」

 「分かったわ」

 「おっけー」


 3人で廊下を進んでゆく。


 「……でも、ムハドさんから、行動する時は集団で、一人で外を出歩くのは控えるようにって言われてるし、宿屋内のどこかにいるとは思うけどなぁ」


 歩きながら、マナトは言った。


 「まあ、そうだよね」

 「……いや、ごめん。そうでも、ないかも」

 「えっ?」

 「鉱山の村で、思いっきり、夜、抜け出して洞窟探検したなぁって……」

 「あ~、はは、確かに。ラクト、あの時ウッキウキだったからなぁ。まあ、あの時は、僕たちもいたけど」


 ミトが、同意するかのように苦笑した。


 「……」


 呑気そうに話す2人とは対照的に、サーシャは不安そうに、そわそわしながら歩いている。


 3人は足を止めた。


 「ここは?」

 「ケントさんの個室」


 ――コン、コン。


 扉をノックする。


 ――カチャッ。


 「ふぃ~。んっ、どうした?みんなして」

 「……」


 サーシャが、顔を背ける。


 扉を開けて出てきたケントは上半身裸で、腰にタオルを巻いていた。筋肉隆々なその身体からは、湯気が出ている。


 「あっ、すみません、お風呂中でしたか」

 「ちょうど、出たところだ」

 「ケントさんの個室に、ラクト……来てないですよね、その感じだと」

 「ああ、来てないが」

 「そうですか」

 「どうした?」

 「いや、ちょっと、探してまして」

 「いないのか?」

 「個室には。もしかしたら、外に出ているかもしれないですが……」

 「……マジか」


 ケントは、少し、目を細めた。戦闘中のような、緊張感のある目だった。


 「まさか、アイツ……ウテナを探しに行ったんじゃ、ないよな……?」


 ――ピクッ。


 ケントが言ったとき、サーシャの背けた顔が、一瞬、動いた。


 「まさか……この、メロ共和国は、アクス王国か、それ以上に広いですよ。探すのなんて不可能です」

 「だよな。……お前らは、引き続き、探しててくれ。念のためだ、俺は服着たら、ムハド隊長に言ってくる」

 「はい」


 ――パタンッ。


 扉が早々と閉まった。


 次に、階段で2階に上がり、とある個室の前で止まった。


 「マナト、ここは?」

 「シュミットさんの個室」

 「……ここには、いないんじゃない?」


 マナトはうなずきつつも、言った。


 「まあ、たぶん、いないと思うけど……でも、ここは、」


 マナトは、シュミットの個室の、右隣の個室を指差した。その個室の扉は、少し、開いている。


 「ラクトの個室の隣だから、変な物音とか、ラクトが誰かと会話していたら、聞いてたり、もしかしたら見てるかもって、思って」

 「なるほど、分かったわ」


 ――コン、コン。


 マナトは、扉をノックした。

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