411 シュミットの個室にて

 ――シャッシャッシャッ……。


 なにか、これまで聞いたことのない音が、シュミットの個室から漏れている。


 「な、なんだこの音……?」

 「シュミットさ~ん?」

 「大丈夫。気にしなくていいわ」


 サーシャが扉に手をかけた。


 ――カチャッ。


 シュミットの返事を待たず、サーシャは扉を開けた。


 サーシャに続いて、マナトとラクトは扉の奥にいるシュミットを見た。


 ――シャッシャッ……。


 中でしていた音が、直に聞こえてくる。


 「あぁ、なるほど」

 「石を削る音だったんだ」


 寝台の手前にある空間に、成人男性の、足元から膝くらいまでの高さの、白緑色の石が置かれていた。四角の角は、丸みを帯びている。


 「……んっ?」


 シュミットが気づいた。手には、細長いヤスリが握られている。


 「おやおや、サーシャさま。また、マナトさんにミトさん。すみません、気づかず」

 「……その石、このメロの国の?」


 サーシャが、シュミットが手を施している石を見ながら言った。


 「ええ。これ、滑石なめいしといって、とても削りやすい上に、この白緑色が、なかなか珍しいなって……市場歩いているときに目に入った瞬間、もう、魅了されてしまって……衝動的に購入しちゃいまして」


 若干、シュミットは、ほくほく顔になっている。


 ……ホントに、やりたいことをやってるんだなぁ、シュミットさん。


 シュミットの表情を見ながら、マナトはしみじみ思った。


 「そう……」

 「それより、どうされました?」

 「あ、あの、」


 マナトが代わりに口を開いた。


 「ラクトを、探してまして」

 「いないんですか?」

 「そうみたいで。シュミットさん、誰か、ラクトの個室に出入りしている人とか、いませんでした?」

 「出入りって……あはは、ちょっと、やめてくださいよ、なに言ってるんですかマナトさん」


 シュミットが、冗談をといわんばかりに、苦笑した。


 「マナトさん、あなた自身が、ラクトさんの部屋に、ちょっと前に、入られていたではないですか。私、その時、どうもって、軽く、会釈したの、もう忘れたのですか?」

 「!!」

 「マナト、まさかこれって……!」


 すると、どやどやと、慌ただしく階段を上がってくる物音が聞こえた。


 ケントが、ムハドとリートを連れてやってきた。


 「ラクトは?」

 「いないです」


 ムハドが矢継ぎ早に問いかけ、マナトがすぐに答える。


 「まだ見てない部屋はあるか?」

 「あとは、ニナさんとか、サーシャさんの召し使いさんの個室ですが」

 「シュミットさんは、宿屋に戻ってからは、ずっとここに?」

 「あぁ、それなんですけど……」


 マナトが、先のやり取りを説明した。


 「しまったやられた……まさかラクトが標的だったとは……!」


 ムハドが苦虫を噛むような表情をした。


 そして、そこにいた全員、事の重大さに気づいてしまった。ジンが、ラクトに接触した、と。

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