412 ムハドの推測

 「ジンがマナトさんの姿に化け、ラクトさんを連れ去ったというのですか……あのマナトさんが、ジンだったなんて……」


 シュミットが、ショックを隠しきれない表情をしている。


 「ラクトを探しましょう!」


 ミトが身を乗り出しながら言った。眉間にしわが寄っている。その表情は、鬼気迫るものがあった。


 「探しましょう」


 サーシャもミトに同意する。


 「待て、落ち着け」


 ムハドが皆を制止した。


 「ケント、ミト。別の宿で泊まってる奴らに報告に回ってくれ。そんで、セラとジェラード連れて戻って来てくれ。動き出すのは、それからだ」

 「分かりました!いくぞ、ミト!」

 「は、はい!」


 ケントとミトが、シュミットの個室を飛び出した。駆け足に階段を下ってゆく。


 「やみくもに探しても、見つからないだろう。……クソ、やられたぜ」


 悔しそうに、ムハドは言った。


 「まさか、繋ぎの、マナトの姿を利用して、動きに出てくるなんてな……」

 「その、化けの皮としているマナトさんと、別の……ウテナさんでしたっけ?その本命の方とで、なにか、ジンの中で使い分けというか、違いが、あるのですか?」

 「……」


 シュミットの問いに、少しムハドは答えるのを躊躇する表情を見せた。


 「……言っちゃっていいよな?マナト」


 ムハドがマナトのほうに振り向き、判断を促した。


 「ええ、大丈夫だと思います。ムスタファ公爵には、怒られてしまうかもしれないですが……」

 「仕方ねえよ。これ言わないと、ラクト、探しにいけねえもん」

 「ですね」


 ムハドが改めて、皆を見渡し、話し始めた。


 「このメロの国に潜伏しているジン=シャイターンの傾向性を、ムスタファ公爵が教えてくれたんだ。それは、マナトの姿で化けているときと、ウテナの姿に化けているときで、明確に違っていることが、1つ、あるのだという」

 「そ、それは、いったい?」

 「住民に危害を加えるとき、必ず、ウテナの姿で襲いかかっているそうだ」

 「!」

 「ただ、マナトの姿でも、護衛や公爵の娘など、目撃情報があったことは、あったらしい。だが、そのどれもが、危害を加えられてはいない。一度だけ戦闘があったらしいが、それは、ウテナそのものと接触した時だけだ」

 「と、いうことは……」

 「ジン=シャイターンは、ウテナという人物の排除を、目的の1つとしているのではないかと、ムスタファ公爵は考えていた」

 「な、なるほど……!」

 「ちなみにウテナという人物は、とある安全な場所で軟禁されている。……その上で、いまの、ジンのラクトへの接触によって、またマナトの姿で活動が確認されたことを踏まえると……、」


 ムハドが目を細める。そして、言った。


 「ムスタファ公爵の予想が正しいとすれば、いま、このメロの国に潜伏しているジンは、その目的を達成するために、ラクトを利用しようとしている」

 「そんな……」

 「なんにしろ、ムスタファ公爵にはすぐに会う必要がある。ケント達が戻り次第、向かうことにする」

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