413 馬車の中、ケントの言葉

 ふとムハドは、サーシャとシュミットのほうへ振り向いた。


 「ちょっと、危険度が、高い。岩石の村のみんなは、ここに残っておいてくれ」

 「は、はい。分かりました」

 「私は行くわ」

 「サーシャ、気持ちはありがたい。だが……」

 「危険度が高いのなら、なおさら戦力が必要でしょう」

 「……ハァッ」


 ムハドが、苦笑混じりにため息を漏らした。


 「……ダメと言っても、ついていくって、顔してるな。分かった」


 ほどなくして、ケントとミトが、別宿にいたセラを連れて戻ってきた。


 「話は道中で聞いたわ、ムハド」

 「おう」

 「すぐに出ると思って、下でジェラードが馬車を手配しておいてるわ」


 セラが冷静に言った。


 「よし、みんな、悪いが力をかしてくれ。行くぞ!」


 宿屋を出る。馬車2台と、ジェラードが立っている。


 皆、足早に、馬車へ。マナトの馬車には、ミト、ケント、そしてジェラードが乗り込んでいた。


 ――ガタガタガタ……!


 馬車の中が激しく揺れる。


 「うわわわっ!」

 「こここの馬車、ゆゆゆ揺れすぎじゃねえか!?」

 「フフフ……」


 ジェラードが微笑んだ。


 「さっき、馬車の運転手に、運賃を少し、余分に渡していおいたからねぇ!その代わり、いつもの倍の速さで向かってもらっているんだよねぇ!」

 「まままマジっすか~!」


 ――ガタガタガタ……!


 馬車はスピードに乗って、巨木の点在するエリアを駆けてゆく。


 「ラクトを一人にしておかなければ、こんなことには……!」


 少し揺れに慣れてきたとき、ミトが、悔しそうに言った。


 ……たしかに。


 今となっては結果論だが、これまでの経験的にも、また、性格的にも、ラクトを一人にしておくことは問題があったかもしれないと、マナトは思った。


 単独行動を取る可能性も、今回の件で、ウテナが関わっているという点で考えてみれば、ラクトが一番高い。


 「こんな、ことには……」


 かつての自らの体験のことも、あるのだろう……ミトの顔色は悪かった。


 「後悔するな、ミト」


 ケントが言った。


 「でも……」

 「それを一番思っているのは、今回の交易における隊長である、ムハドさん自身だからだ」

 「……」

 「隊長はただの責任職だ。名誉職でもなんでもねえ。隊になにかあれば、それは、隊長の責任になる」

 「……はい」

 「だから、隊長のため……ムハドさんのためにも、ぜったい、ラクトを救い出すんだ!」

 「……はい!」


 ……隊長は、責任職、か。


 ――ガタガタガタ……!


 激しく揺れる馬車の中、ミトとケントの会話を聞いていたマナトは、ケントの言った言葉が、繰り返し聞こえているかのように、マナトの頭の中で巡っていた。


     ※     ※     ※


 ――ガラガラガラ……。


 ムスタファを乗せた馬車は、自らの公宮へと向かっていた。


 「……」

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