408 出入り口に立ちし者

 「……あつい」


 ウテナが唇を離し、身体をラクトに預けたまま、言った。


 「ラクトの唇……身体……燃えるようにあつい……これ以上、あなたに、あなたの熱を注がれたら……」


 ――スッ。


 言いながら、ウテナはラクトの腰に両手を回した。


 「だから、もう、ここまで……」

 「え……?」

 「ラクト。やっぱりね、おばさん達も、みんなも、許してはくれないみたいなの。あなたが血を流すことを、みんなは、別に、望んでないの……」


 ――ドンッ。


 「うっ……」


 ウテナが、ラクトを突き飛ばした。


 「あっ……!」


 離れたウテナの右手には、ダガーが持たれている。


 「ありがとう、ラクト。お陰で、あたしも決心がついた」

 「決心って……ウテナお前なにを……!」

 「ずっと、みんなに笑顔でいてもらうために……、みんなに、安心してもらう、ために……、あの星たちみたいに……」


 ウテナがダガーをゆっくりと持ち上げた。その刃は、ウテナ自身の首に向けられている。


 「あたし、死ぬね」


 ――ザッッ……。


 「……えっ?」


 ダガーがウテナの首に刺さる瞬間、ラクトが、ウテナに飛びかかって、そのまま、抱きついていた。


 ――グサッ。


 「……」


 ウテナの、自らの首を狙ったダガーはズレて、ラクトの左肩に突き刺さっている。


 今度は、ラクトの肩から、血が流れる。


 ――グッ……。


 「……ダ、ダガーが、抜けない」

 「無駄だ。肩の筋肉で止めている。それに、ウテナ、血が減って、いつもの力が出てないようだな……」


 ウテナに抱かれたラクトが言った。


 「ラクト、あなたが血を流したって……」

 「うるせえ。お前は、死なせねえ……」

 「……どうして……どうして、死なせてくれないの……」

 「生きろ……」

 「あつい……あったかい……あぁ……」


 フッ……と、ラクトに抱かれたまま、ウテナは、糸が切れたように、身体全体の力が抜け、だらんとラクトにもたれかかった。


 気を、失っている。


 「……」


 ラクトはウテナをおんぶして、アーチ状の、奥の間と青空の出入り口まで歩こうとした。


 ――フラ……。


 「あ……?」


 ラクトの視界が、歪んだ。


 ――ドサ……。


 ラクトが砂の上に倒れ込む。ウテナも、ラクトに被さるように、力なく倒れた。


 「やべ……血が……足りてねぇ……」


 ――ザッ。


 と、出入り口に、一人の男が立っているのが見えた。


 「おう、マナト……す、すまねえ。ちょっと、手伝って……くんねえか……?」

 「……」


 ラクトの問いかけに、マナトは、無言のまま、無表情のままで、出入り口で立ち尽くして、ラクトとウテナを、見下ろしている。


 「ま、マナト……、すまねえが……力を……」

 「……あなたが、この国の救済における、トリガーとなるはずだった。……それが、」


 マナトが、言った。


 「こんなことに、なるとは……」

 「マナト……お、お前……な、にを……?」

 「なぜ、抗うのか、この国は、どこへ向かうのか……ククッ」


 マナトが、笑う。


 「クククク……」


 ――サァ~。


 「あ……」

 「ラクトさん、今回はやられました」

 「く……ソ……いつ……から……」

 「さようなら。また、どこかで……」


 ――サァ~……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る