152 戦闘⑤/砂嵐を越えて

 ――ジャキッ!!


 砂嵐で視界が甚だしく悪い中、マナトの目の前に、デザートランスコーピオンの鋏脚が立ちはだかる。


 「くっ!」


 マナトは水流を蹴り、鋏脚をかわした。一度地面に足をつけると同時にすぐ足下に水を溜め、ジャンプの姿勢をとる。


 ――ギィン!!


 と、ケントの大剣と思われる、大きな金属音がした。


 「ケントさん!」

 「マナト!無事か!?」

 「はい!ミトもラクトも、何とか!」

 「よかった!コイツ倒したら、加勢すっから、もう少し頑張れよ!」


 ……ケントさん、この砂嵐の中で、戦ってるのか!


 ――ザンッ!!


 どのような戦況になってるかは全く分からない。ただ、ケントとデザートランスコーピオンの、交戦する音だけが聞こえてくる。


 「ケントさん!僕、一旦砂嵐から抜け出します!」

 「何か、策でもあるのか?」

 「はい!」


 ケントの声が響いた。


 「分かった!いけ!マナト!任せたぞ!!」

 「……はい!!」


 ――バシャァアア!!


 すぐ近くで、再び砂が吹き上がる。マナトは水圧の力を利用して大きくジャンプした。


 水流に乗る。


 再び、スピードに乗って、前へ前へ。


 「……」


 《もういいよお前、何もしなくて……》


 砂嵐の中を進みながら、マナトの脳裏に、あの時の記憶がよみがえる。


 ……思えば、あの頃の心の中は、こんな、砂嵐のようなものだったかもしれない。


 《分かった!いけ!マナト!任せたぞ!……》


 先に言われたケントの言葉が、上書きされるように脳裏に響いた。


 ……応えなければならない!自分を信用してくれている、大切な人たちのためにも!!


 ――バシャァアア!!


 「来ると……思ってたよ!!」


 ――ジャキッ!!


 鋏脚の攻撃を紙一重で小さくジャンプして交わすと、マナトはその鋏脚の上に着地した。


 「そうやって進路を防いで、砂嵐の中から出さないようにしてるんだろう。だから……!」


 マナトは、力一杯、水圧の力と合わせて、鋏脚から飛び上がった。


 「その先に、青空が広がってるんだ!!」


 デザートランスコーピオンの吹き上げた砂柱ごと、マナトは飛び越えた。そして、水流に乗って、ジェットコースターのように猛スピードで直進した。


 ――サァァ……。


 青空と、陽の光がマナトに降り注いだ。


 ……砂嵐を、抜けた!


 「よっと!」

 「えっ?」


 マナトとほぼ同時に、リートも砂嵐の中から抜け出してきていた。


 「リートさん!」

 「うぃっす!いやぁ、かなり、広範囲だったみたいっすね、この砂嵐」


 振り返り、目の前の、もはら巨大な結界と化した砂嵐を見ながら、あくまで冷静な様子でリートは言った。


 「デザートランスコーピオン、恐ろしい生物ですね……でも、何とかできるかもです!」

 「ほう!どうするんすか?」


 マナトは周りを見渡した。少し遠いところに、ラクダ逹がいる。


 「おびえないで、大丈夫だよ」


 ラクダ逹をなだめつつ、背中の荷物から、水壷を3つ取り出し、リートのもとへ戻ると、マナトはそれを地面に置いた。


 「敵に追いつかれる前に……!!」


 ――シュシュシュシュシュ……。


 3つの水壷から、それぞれ水流が出てきた。


 マナトが両手を開く。


 ――プカプカプカ……。


 小さな水玉が、無数に生成されてゆく。キャラバンの村の、水の修練でやっていたことの、応用だ。


 「よし……回転!」


 水玉の大群が、横向きに回転し始めた。

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