151 戦闘④/砂嵐

 鋏脚の一部を失ったデザートランスコーピオンは、天を仰ぐように上を向くと、両鋏脚を広げた。


 ――ヴァヴァヴァヴァ!!


 シンセサイザーなどの電子楽器から発せられるような音。それも、砂漠の遥か向こうにまで聞こえそうな爆音で、デザートランスコーピオンは鳴き始めた。


 「な、なんだ!?」

 「新たな攻撃か……!」


 言いつつ、ミトとラクトが構え直す。


 ――ヴィヴィヴィヴィ!!


 少し音程や音波が変わったりしながら、デザートランスコーピオンの鳴き声は砂漠に響き渡っている。


 ……やはり、砂漠に適応した、こういった獰猛な生物も存在するのか……!


 マナトはそんなことを思いながら、水流をまとった。


 ――ヴァヴァヴァ……!! 


 デザートランスコーピオンは以前、ずっと鳴き続けている。しかしうるさいだけで、特にこれといった変化はない。ただ鳴いているだけだ。


 ただ、その異様な光景に、皆、硬直していた。


 「これは……なんだ?副隊長、分かりますか?」


 ケントも何が起こっているのか理解できていない様子で、リートのほうを向いた。


 「う~ん。僕も分からないんすよねぇ~」

 「そうですか」

 「でも、なんか……」


 デザートランスコーピオンを見ながら、リートは至って穏やかな感じで言った。


 「仲間、呼んでるように見えるっすね」

 「あぁ~、なるほど~。さすが副隊長」


 ケントは、納得した様子でうなずいた。


 「そうかそうか、言われてみればそうですね。なるほどなか……仲間!?」


 ――ヴィヴィヴィヴィヴァヴァヴァ!!


 ケントの表情が、一瞬で焦りに変わった。


 「お、お前ら!あのうるせえサソリにとっととトドメさすぞ!仲間を呼ばれるのはヤバい!!」


 ケントが駆け出したその時だった。


 ――バババババシャシャシャシャァァアアア!!!!


 5つの砂の柱が、商隊のそれぞれの足元から吹き上がった。


 ――ゴォォオオオオオ……!


 その砂煙があがった辺り一面、砂嵐が巻き起こり始め、商隊全員の視界を遮った。


 ――ジャキッ!!


 「!!」


 ――バシュシュッ!!


 先に、ミトに切り落とされていない……新たな敵の鋏脚が襲いかかってくるのを、マナトは水圧を利用して回避した。


 そのまま、水流に乗る。


 ――スィィイイイイ!!


 ……まずは、砂嵐から出ないと!視界は悪いけど、直進すればとりあえず出られるはずだ!!


 マナトは真っ直ぐの水流の軌道に身を預けた。


 「うわっ!!」

 「あぶねっ!!」


 ミトとラクトの声が聞こえる。


 「ミト、ラクト、大丈夫!?」

 「な、なんとか!砂煙の、一瞬、軌道が変わるのを見て、回避はできる!」

 「でも、ダメだ!敵が見えねえ!避けるのが精一杯だ!」

 「ちょっとだけ待ってて!僕に考えがある!」


 ミトとラクトに言い残し、マナトはスピードに乗って、とにかく前へ前へと、砂の嵐を突き進んでいった。

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