153 戦闘⑥/リートの火矢、マナトの策

 「デザートランスコーピオンは、砂を巻き上げることで敵の視界を奪ってくる。なので、あの砂嵐を、なんとかします!」


 マナトがつくり出した、一つひとつが小さなゴムまり程度の大きさの水玉の大群は、ゆるやかに回転したまま、砂嵐に迫った。


 「そのまま、砂嵐へ」


 やがて、水玉が砂嵐に交わり始める。水玉は、砂嵐に巻き込まれていった。


 ――バッシャァア!!


 マナトの隣で砂が吹き上がった。マナトを標的にしていたデザートランスコーピオンだ。


 砂の中から鋏脚が開かれた状態でマナトに飛んできた。


 「くっ!さすがに追いついてきたか」

 「大丈夫っす、マナトくん」

 「!」


 リートがマナトの前へ立ちはだかった。


 ――ガッ!


 そして、背中の弓の矢を一本持って、閉じられようとする鋏脚に、横向きに押し込んだ。


 ……なんて人だ!矢一本で鋏脚を止めるなんて!


 「ジャマしないでもらえるっすか?いま、いいところなんで」


 リートの、左耳につけられていたエメラルドのピアスが、キラリと光った。


 ――ボォッ!


 鋏脚に挟まっている矢の、矢尻部分が、勢いよく燃え出した。


 ――ボォォオオオ……。


 炎はみるみる鋏脚から可動域の腕部分をつたい、襲ってきたデザートランスコーピオンの隠れる砂煙の中へと入っていった。


 ――ヴァァア……。


 砂の中からデザートランスコーピオンの声が聞こえてきたと思うと、火だるまになって砂煙の中から出てきた。


 「すごい……これが、リートさんの能力か……!」


 デザートランスコーピオンはもだえながらも、砂を掘り起こして砂の中へと消えていった。


 その光景を見守っていたリートが、振り返った。そして、赤い目を細めて、ニッと笑った。


 「そこそこ致命傷負わせたんで、これでしばらくは攻撃されないっすよ」

 「ありがとうございます!……よし!」


 大量の水玉は、どんどん、砂嵐に投入されていった。


 「水玉を、砂嵐に……でもマナトくん、これでいったい何を?」

 「水の溶解を利用します」

 「溶解?」

 「はい。……そろそろだと思います」

 「そろそろって……あっ!」


 目の前で結界のように吹き荒れていた砂嵐に、異変が起こった。


 ――サァァ……。


 どんどん、砂嵐の勢いが弱まってゆく。そして、巻き起こっていた場所一帯、少しずつ、視界がクリアになってきた。


 「砂の粒子を、水玉に染み込ませていったんです。水は物質を溶かしこむという、溶解という性質を持ってます。また、一度水に溶け込むと、解離しにくいというのも水にはあります。それを利用しました」

 「ほえ~」


 マナトの言葉を聞きながら、関心した様子で、リートは目の前の光景を見ていた。


 ――ボト、ボトボトボト……。


 視界がクリアになってゆくのと平行して、砂の粒子を多量に含んだ、泥団子のような水玉の雨が、一帯に降り始めた。


 「おっ?」

 「なんだ……砂嵐がやんできたのか?」


 ミトとラクトの姿と、交戦していた複数のデザートランスコーピオンの姿が見えた。


 「マナト!やったか!」


 少し離れたところで、ケントの姿も見えた。

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