154 戦闘⑦/決着

 ケントを相対するデザートランスコーピオンは、片方の鋏脚と、毒針の尾が切り落とされていた。


 砂嵐の中でも、ケントは善戦していたようだ。


 ――ボトボトボト……。


 砂嵐が止んで、代わりに泥水の玉が降り注いでいる。


 「泥水が落ちてきてる」

 「マナトがやったのか」


 ミトとラクトも気づき、マナトを見た。マナトはうなずいた。


 「さて、終わらせるぞ、ミト、ラクト……おっ?」


 ケントが言い、デザートランスコーピオンを見ると、異変に気づいたのか、鋏脚で砂を掘り起こそうとし始めていた。


 ――ベチャベチャ。


 しかし、泥水の玉が落ち、ドロドロと、所々、沼のような湿地と化した状況のためか、砂を掘り起こせず、うまく地中に潜れていない。


 「どうやら、勝負あったようだな」


 ――ヴァ……!


 「仲間はもう、呼ばせないぜ!!」


 ――ザンッ!!


 仲間を呼びかけた手負いの一体に、ケントがトドメの一撃をくらわせた。デザートランスコーピオンは倒れて動かなくなった。


 「なるほど。地面に水分が含んで、動きづらくなってるのか……んっ?」


 ――ボコボコ……。


 ミトに向かって、砂の中に潜伏しながら、デザートランスコーピオンが忍び寄る……が、濡れた土地となったせいで、潜伏位置が盛り上がり、バレバレになっていた。


 ――バシャ……!


 「今だ!!」


 ――ザクッ!!


 ミトが跳躍。ダガーの綺麗な銀色の残像が、敵の関節を捉えた。


 「ミトもやったか……うっし」


 ラクトがダガーを構え、目の前のデザートランスコーピオンを見据えた。


 「フゥ、一時はどうなるかと思ったが……」


 ――シュッ!


 「もうきかねえよ。砂嵐の中で、どれだけよけ続けたと思ってんだ」


 毒針の尾をラクトはかわして、懐に飛び込んだ。


 「いい勝負だったぜ」


 ――ズババッ!!


     ※     ※     ※


 「せっかくなんで、毒針の尾を、キャラバンの村に持ち帰るっす!」


 リートは、ケントが砂嵐の中で切り落としたデザートランスコーピオンの毒針を持ち上げた。


 「えっ、どうしてです?」

 怪訝そうに、ケントは聞いた。


 「この尾に含まれている毒は、いわゆる麻痺系の類いの毒なんすけど、加熱やら他の薬草と組み合わせて変毒することで、鎮痛薬となるっす!」

 「おぉ、なるほど」


 リートは毒針を布で巻くと、ラクダに乗せた。


 「よし!んじゃ、村へ帰んぞ~」


 ケント商隊は、キャラバンの村へ向かって歩き出した。


 「しっかし、ここでデザートランスコーピオンが出てくるとは。随分前にクルール地方では姿を見せなくなったんすけど」

 「どっかの地方から、やって来たのかもですね。実は、鉱山の村の奴らからは、チラッと聞いてたんですよ」

 「あっ、そうなんすか!?」

 「いや、リートさんいるし、どうせ負けないかなって思って、あはは!」


 前方では、ケントとリートが会話しながら、歩を進めていた。


 「あぁ、もう、服の中まで泥まみれ……」

 「ホント、帰ったらすぐにお風呂入りたい」

 「……そりゃっ!」

 「ちょっとラクト!泥が飛び散ってる!」

 「ガハハ!いや、てかお前のせいだろうがマナト!」


 後方では、ミト、ラクト、マナトの3人が、楽しそうにじゃれ合っていた。


 やがて商隊は、キャラバンの村へと帰路につくのだった。


 (鉱山の村 完)

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