47 アクス王国/王宮での交易①

 広場を過ぎて、石で積み上げられた住居の間を歩いていると、ケントがマナトに言った。


 「どうだ?初のキャラバン遠征は」

 「楽しいです、とても」

 「そうかそうか!そりゃあ、良かったぜ」

 「でも、ジンとか盗賊団とか、やっぱり、恐いですね」

 「ぶっちゃけ、キャラバンの村の最終試験を通ってれば、盗賊団に関しては、まあ、人数にもよるんだけど、まず恐くない。獰猛種の獣のほうが、絶対、強いからな」


 ……僕、特別枠で、獰猛種の獣とは……まあ、いいか。


 「でもまあ、会わないに越したことはない」

 「ですね。僕もそう思います」


 ……あっ、そういえば。


 一瞬、西のサライで、昨夜、ケントとフィオナの間で何があったのか気になったが、やはり聞くのは野暮だと、思いとどまった。


 やがて、住居と住居の間から、その先の道沿いに連なる、2列の白い列柱廊が姿を現した。


 「あれが、王宮だ」

 「おぉ……」


 列柱廊の先、青銅の門があり、黒い甲冑を装備した衛兵が2人、立っている。


 その奥に見えるもの。まさに、宮殿というべきか、神殿というべきか。


 アーチ状の大扉のある建物や、屋根がドーム状になっている建物、それらが回廊で繋がっていて、王宮中央には、ひと際大きなドーム状の建物が建っていた。


 そして、列柱廊の上にも、アーチ状の大扉にも、ドーム状の屋根にも、細部に渡って天使の彫刻が施されていた。


 列柱廊の間を歩き、青銅の門にいる衛兵の前で、ケントは止まった。


 「キャラバンの村、ケントです。村の長老、フリードからの交易品をお持ちいたしました」

 「……」


 ――ガラガラガラ……。


 衛兵は何も言わず、青銅の門を開けた。


 「よし、マナト。入るぞ」

 「えっ?……どうも、お邪魔します」


 真っ直ぐ向く衛兵に、マナトはお辞儀しつつ、ラクダ4頭と共に王宮の敷地内に入った。


 ……結構、ゆるくない?


 芝生の中庭を少し歩き、大きななアーチ状の扉のある建物の前で止まった。


 「ここが、王宮の交易所だ」


 ケントは扉を叩いた。


 「おぉ、どうも、どうも。キャラバンの村のお方」


 扉が開き、少し年配の、全体的に丈が長めの白い衣装を身にまとい、頭にターバンを巻いた男が出て来た。


 「どうも、王宮商人」


 ケントが言った。


 「すみません。予定より、一日、遅れました」

 「いえいえ。盗賊団だのジンだのと、いろいろと王国にも情報は入ってきておりました。ここまでの道のり、大変でしたでしょう」

 「そうですね。途中、盗賊団との交戦はありましたが、ジンと遭遇はしませんでした」

 「いやぁ、ご無事で何よりです。フリード様は、ご健在ですか?」

 「はい。ピンピンしてますよ。もう少し、年齢を気にしたほうがいいって、思うくらいですね」

 「ははっ、それは、何よりです」

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