202 キャラバン達の去った後で①

 ケント商隊が村を去った数日後。


 「ふんふん、ふ~ん」


 村長の家の裏側の敷地で、ニナが機嫌よく、脚立の上で、伸びた木の枝を切り落としていた。


 「んっ?」


 ニナは窓を見た。


 何やら、屋内はバタバタしているようだ。窓越しに、長い廊下を、召し使い達がせわしなく行き交っている。


 空いている窓から、召し使い達の声が聞こえてきた。


 「サーシャさまが、外に出られるって!」

 「あら、大変!」

 「外行きのお服、お靴は、もう準備できて?」


 ……お姉さま、外出されるんだ!


 ニナは脚立から飛び降り、家の正面へと走った。


 「うわぁ」


 正面玄関の前には、普段は城壁を守っている護衛達が十数人やって来ていた。規則正しく隊列を組んで、その人が出てくるのを待っている。


 「ふぅ~」


 屋内で準備していた召し使いの一人が、裏口から外へ出てきた。


 「あら、ニナもお見送り?」

 「うん!いっつも、お姉さまが外に出るってだけで、すっごいよね~」


 整列する護衛達を見ながら、ニナは言った。


 「仕方ないわよ。数年前、サーシャさまがこの村にやって来られたことで、アクス王国の王宮が、この村のパトロンになってくれたんだもの」

 「パトロン?」

 「支援者ってことよ。だから、万が一にも、サーシャさまになにかあってはいけないから、外を出歩くときは、村の中といえども、常に護衛付きなのよ」

 「でも、お姉さまは護衛がつくの、とても嫌がっているでしょ?家の中には、ぜったいに護衛を入れないし」


 ニナの言葉に、召し使いはうなずいた。


 「そうね。とはいえ、サーシャさまはご自身のお立場というものを、十分、ご理解しているお方でもあるわ」

 「ふ~ん」

 「まあ、王家の宿命よね。あれだけ護衛がつかないと、外にすら出られないなんて……」


 召し使いの言葉には、少し、同情のようなものが滲み出ていた。


 「確かに、ずっと守られているというのも、窮屈なのかもしれないわね……」


 やがて、玄関が開き、サーシャが出てきた。外行き用の、スラッとしたベージュのドレスに、爪先の開いた、かかと部分が高い緑のヒールを履いている。


 「敬礼!」


 十数人の護衛達は、サーシャへ敬意を示した。そして、サーシャの周りを取り囲む。


 「……はぁ」


 サーシャは一度、小さいため息をついた。


 「お姉さま~!!」


 ニナは精一杯の大声を出した。


 「いってらっしゃ~い!!」


 すると、サーシャはニナのほうへ振り向いた。


 「……」


 サーシャは無言で、また、無表情で、ニナに小さく手を振った。


     ※     ※     ※


 「サーシャさまだ……!」

 「お姉さま!」

 「サーシャ姉さま!」


 護衛達に厳重に守られながら、道を歩くサーシャに、村人達が声をかける。


 「……」


 無言で、また、無表情で、サーシャは村人達に向かって小さく手をあげた。


 「お姉さま、今日もキレイ!」

 「あぁ、なんと美しい……」


 老若男女問わず、その姿に見とれていた。


 そのまま道なりにサーシャ一行は進んだ。

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