169 湖の村の若村長③/VSリート

 無数の星が瞬く夜。


 盗賊が逃げ去っていった先は、見晴らしのよい草原が広がっている。


 ジャンは草原を見渡した。草原に人影は、ない。


 ……林のほうか。


 ジャンの後ろには、村へと続く林が広がっていた。


 しかし、木と木の影がそれぞれ折り重なって、その林全体、暗闇となってしまっている。


 ……先の盗賊とは、全く別次元の相手のようだ。うまく密林の中に身を潜めている。


 ジャンは草原を見つめたまま、あえて振り向かなかった。


 神経を研ぎ澄まして、気配でどこにいるかを察知しようと務めた。


 余裕があるわけではなかった。


 明らかに気配を感じさせつつ、どこにいるかは分からせないところから、自分をおそらく狙っているであろう敵は、強い。


 そう、ジャンは密林から漂う気配で感じ取っていた。


 ――ヒュゥ!

 風を切る音。


 「!」


 ジャンは林のほうに振り向いた。


 ――パシッ!


 振り向きざま、林の暗闇から飛んできた弓の矢を、自らのこめかみに刺さるギリギリのところでつかんだ。


 「……これは!!」


 つかんだ矢の矢じりを見たジャンが、とっさに矢から手を離して、サッと身を引いた。


 次の瞬間、


 ――ボゥ!


 矢じりには尖った石がついていて、その石が勢いよく燃え出した。


 「火のマナ石を仕込んだ火矢か……!」


 ジャンの手から離れた、赤々と燃える火矢は、ポトリと草むらに落ちた。


 そのまま、地面で小さく燃えている。


 「敵は……!」


 ジャンは矢が飛んできた方向へと目を向けた。


 しかし、暗闇で見えない上、矢が飛んできた時かすかに感じた敵の気配は、その残り香だけを残しているのみで、気配そのものは消えていた。


 「見失ってしまったか……」


 ――ボボボボボッ!


 「なに!?」


 草むらに落ちて燃え続けていた、矢の炎が急に動き出した。


 「この火の動き……炎の能力者か」


 細い線を描くように、草へ草へと次々と燃え移りながら、みるみるジャンに向かって迫ってくる。


 ……この炎が、身体に燃え移ってくるとまずい!


 そう判断したジャンは横に飛んだ。迫る炎をかわす。


 ――ヒュゥ!


 先の飛んできた場所とは別の暗闇から、もう一矢、ジャンに向かって飛んできた。


 「くっ!」


 ジャンは一旦納めていた長剣を、再び抜いた。


 ――キン!


 長剣で一閃。矢が弾き飛ばされる。


 しかし、その矢の矢じりからも、ボッ!と燃え始めた。


 ポトリと草むらに落ちる。


 ――ボボボボッ!


 1本目と同じように、草をつたって火線が地を這う。


 ――ボボボボ……!

 ――ボボボ……!


 2本の火線が、ジャンへと襲いかかる。


 「……くっ!」


 回避し続けるジャンに対して、火線は弧を描いて、執拗にどこまでも追いかけてくる。


 ――ザッ!


 ジャンは駆け出した。

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