168 湖の村の若村長②/VS盗賊

 飛び込みざま、ジャンは盗賊団の一人に狙いを定めた。


 ――キン!ズバッ!


 左手の剣で、敵が突き刺してきたダガーを弾き飛ばす。同時に、右手の剣で容赦なく斬った。


 「ぐぁ……!」


 斬られた敵は、為す術もなく倒れた。


 ジャンはさらに飛び上がった。


 敵の中へ。着地と同時に、槍で突き刺そうとしてきた敵2人を斬った。


 瞬時に切り返す。


 身体を激しく回転させつつ、ジャンは長剣を振り回した。


 次々と、敵が倒れてゆく。


 「チクショウ!取り囲んで串刺しにしちまえ!!」


 一人が言うや否や、四方八方から敵が、ジャンに一斉に飛びかかった。


 ジャンの目が激しく動いた。


 跳躍して頭上から双剣で斬りかかってくる者、横からダガーで突き刺してくる者、背後に回って槍で刺そうとする者……そのすべてを見切って、


 ――キンキンカンキンキンキン……!


 ジャンの2刀が、そのことごとくを弾き飛ばした。


 「なっ……!」

 「なんだこいつ……!」


 ジャンのあまりの強さに、武器を弾き飛ばされた敵は皆、愕然とした。


 ジャンは、今度は、武器を失った相手に切りかかることはしなかった。


 「あなた達は傷つけません。周りを見なさい」


 見ると、すでにジャンに負傷させられた盗賊が、半分以上倒れている。


 「彼らを連れて、去りなさい」


 ジャンが、まだ負傷していない盗賊に言った。


 「!」


 と、草原のすぐ近くの、林のほうから気配がした。


 「死ね!!」


 ――ヒュッ!


 盗賊団の一人が、木の上からジャン目掛けてボウガンを放った。


 ジャンは左手の長剣を少し浮かせるように、回転させながら放り投げると、


 ――パシッ!


 自らの身体に刺さるギリギリのところでボウガンの矢をつかんだ。


 「なに!?!?」


 ――ブンッ!!


 敵が信じられないといった顔をした次の瞬間には、ジャンはボウガンの矢を投げ返していた。


 「ぐぁぁ……!」


 ――ドサッ。


 木の上にいた敵は、ジャンの投げ返された矢に当たって木から落ちた。


 ――パシッ。


 ジャンの左手に長剣が戻ってきた。


 「こ、こいつ、人間じゃねぇ……!!」


 ボウガンの矢を受け止め、投げ返した光景を見た敵は戦慄した。


 改めて、ジャンは盗賊の面々を見渡した。


 「甲冑……大将か?」


 少し遠くに、他の輩とは違って、甲冑をまとっている、おそらく大将格と思われる一人がいることに気づいた。


 「ひとりだけ甲冑とは……少しズルいのでは?」


 ジャンが右手の長剣を振りかざした。


 ――ヒュッ!


 そのまま、振り下ろす。


 剣筋から、風が飛んだ。


 その風が、少し遠くにいる、甲冑をまとっている相手にあたった。


 ――パキッ。


 「へっ?」


 甲冑が、真っ二つに割れ、地面に落ちた。


 「ば、バケモノだ……こいつバケモノだ!!」


 盗賊団は負傷した者をかばいながら、逃げ出した。


 ジャンは追うことはせず、ただ、見守っていた。


 「……」


 ほどなくして、草原は、静けさを取り戻した。


 「……」


 しかし、ジャンは、湖の村へと戻ろうとしなかった。


 ……まだ、誰か、いる。

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