503 コーナー際、石柱下の駆け引き

 「っし!」


 ナジームは口に加えていたサーベルを手に持ち直し、フィオナへと切りかかった。


 右斜めからの大降りな一閃。


 フィオナはレイピアで受け流す体制。


 ――ヒュ。


 「!?」


 振り抜かれる前にサーベルの動きが止まる。同時にナジームが一瞬下がった。


 「フェイント……!」


 ――シュッ!


 すかさずナジームが腹部を目掛けて突きを放ってくる。


 ――カィン!


 ナジームの突き攻撃を、フィオナが払い除ける。


 だがすぐに、今度は横振りの追撃。


 ――キィン!


 レイピアを盾にして、フィオナはなんとかやり過ごした。


 ……速い上に、重い……!


 斬るというより、押しつけるようにして、ナジームがサーベルを振ってくる。


 ――キィン!カァン!


 さらに、速い剣筋。


 そのため、フィオナは反撃ができない。その上、回避して石柱から出るという動きも取れない。


 「くっ!たいそうな駆け引き要求してくるじゃない……!」

 「悪いな!これで決めさせてもらうぞ!」


 一方的に、フィオナがナジームの攻撃を受け続ける。


 「あぁ~!!ヤバいヤバいヤバい~!!」

 「なにしてんだフィオナぁ!!コーナーから出ろぉ!!」


 ステージ上手の脇で、ライラとオルハンが叫んだ。


 「いや、出れないんだ。ナジームが押し付けるように攻撃を繰り出してる……!」


 2人よりも幾分冷静な様子で、フェンが言う。


 「てゆうかナジームのヤツ、あんなに強かったのかよ」

 「強さに特化したサロンとは聞いていたけど、これは、噂以上だね……!」

 「さっきのナジームのロアスパインリザードみたいな動きも、はじめて見たぞ」

 「そうだね。普段、キャラバン同士、共行でもしないと、戦う姿を見ることがないからなぁ」

 「あの距離だと、突きの攻撃も無理か」

 「ああ、あそこまでナジームに距離詰められると、フィオナの得意としている突きの攻撃は、できないだろう」

 「かなり不利か……」

 「不利だね……」

 「こらぁあああ!!男子!!弱気になるなぁあああ!!」


 振り向いてライラが怒鳴った。


 「大丈夫ですよ、先輩たち」

 「!」


 3人の後ろ、他の後輩のサロンメンバーに混じって観戦していた、フードを深く被り、薄い緑色のマントに身を包んだメンバーが、言った。


 「フィオナさんなら、きっと……!」

 「……」

 「ウテナ……!」

 「あっ!見て!」


 ライラがステージの上を指差した。


 フィオナが、レイピアのやいばを真っ直ぐにナジームに向けた。


 刺突の体制。


 しかしそれは同時に、レイピアによるガードも外れたことになっていた。


 「痺れを切らしたな!!」


 ナジームが容赦なく切りかかる。


 瞬間、フィオナが右足を前に突き出した。


 「なっ!?」


 ――ドッ!


 前蹴りがナジームに直撃。


 ――ジャキッ!


 金切り音。ナジームの、斬撃の距離が変わり、フィオナの銀の甲冑を裂いた。


 「くっ!浅いか……!」


 ナジームが切り返して、横薙ぎの一閃。


 ――ヒュッッ!


 しかし、その一閃を読んでの、刺突。フィオナのレイピアのほうが速い。


 「ぬぅ……!」


 ナジームが横に転がって回避。フィオナは跳躍した。


 ――スタッ。


 フィオナがステージ中央へと舞い戻る。


 「いま!!」


 ――ヒュッッ!


 間髪を入れず、体制を崩したナジームに刺突を放った。

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