504 マナト、観戦しながら
「いけーー!!」
「よっしゃやっちまえーー!!」
ライラとオルハンがステージ脇で跳び跳ねながら叫び散らしている。
――カィン!
「あっ、また……!?」
「サーベルを……!」
フィオナの刺突に合わせるように、ナジームが身体ごと振り回し、上からサーベルでレイピアを弾いた。
またしても、ナジームがサーベルを口にくわえている。
――タッ、タッ。
そして、ナジームは両手でうまく受け身をとりながら、素早く立ち上がって体制を立て直した。
「……」
「……」
ステージ上、フィオナとナジームが構え直す。
一瞬、静寂。
――おぉ~!!
歓声。息をつかせぬ攻防に、観客は沸いた。
「だはぁっ!」
そんな中、マナトは大きく息を吐いた。
「マナト?大丈夫?」
立ち上がってフィオナを応援しているミトが、マナトの顔を覗いた。
「いやてか、なんでお前が息を止めてんだよ」
途中から立ち上がっていたラクトが、マナトに突っ込んだ。
「いやもう、どこで呼吸していいか分からないくらい、緊迫の戦いすぎるんですけど……」
「いやマジですげえ試合だな。どっちが勝つかマジで分からん」
「マナトも立って、フィオナさんを応援しようよ!」
「あ、いや……」
ミトは言ったが、マナトは立ち上がらなかった。
「いやだって、ほら、あの人……!」
「えっ?」
ミトはマナトの、ひっそりと指差す先を見た。
「……あぁ、なるほど」
ステージ上手脇、フェンのサロン。
その最前線、ステージのすぐそばに、オルハンがいる。
マナト達のいる場所は、どちらかといえばナジーム陣営のいるステージ下手側に位置していた。
つまり、立ち上がることで、オルハンの視界に入ってしまうおそれがあった。
「あの、オルハンっていう、水を操る人に、気づかれちゃうって、ことか~」
ミトは理解した。
「そう、そうなんだよね……!ぜったい、視線に入っちゃうんだよね……!」
「いや大丈夫だろ。あのオルハンって人、ステージの上のフィオナさんの戦いに集中して……」
「いやいやラクト、いつ視線がこっちに向くか分からないじゃ……!」
「おい、マナト」
マナトの言葉を皆まで聞かず、ラクトがマナトに耳打ちした。
「えっ?」
「あれ、やっぱり、ウテナだよな?」
「あぁ、あのフード被ってて顔が見えない人でしょ?たぶん、そうだと思うよ」
「……」
ラクトがフード姿のウテナを見つめていた。
なんともいえない、神妙な面持ちをしている。
「……」
そして、そんなラクトを、すぐ隣で、サーシャが見つめている。
「そういえば、ルナさん、どこかにいるのかな?」
ミトが言った。
「あっ、たしかに」
マナト中腰くらいに立ち上がって、キョロキョロと観客席を眺めた。
「あっ、マナト、あそこ!あの特別感のある席!」
「えっ、……あっ!」
ステージ正面、他よりも数段高くなっている席のところに陣取って座っている者たちがいた。
「ムスタファ公爵がいる!」
「ほんとだ!」
「あれ、みんな、公爵たちかな?」
「たぶん。観戦に来てるみたいだね」
「そうだね」
「……あっ!」
ムスタファの少し後方、執事や召し使い、護衛に混じって、ルナがいた。
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