505 フィオナの思い、ウテナとのひと時

 周りの令嬢や女性たちが、きらびやかなドレスで着飾っている中、ルナは男性が着用するような無地の白装束を着用していた。


 そして、少し不安な面持ちで、ステージを見つめているようだった。


 「お~い!ルナさ~ん!」


 ミトが大きく手を振った。


 「おお~い、ルナさ~ん……!」

 「いやマナト、中腰で手を振っても、ルナさんに絶対見えないよ……」

 「いや、やっぱりあの人がさ、ほら、目線に入ったらマズいじゃん……」

 「というか、なんで、あのオルハンて人、あんなに、マナトには敵意むき出しなんだろうね?」

 「それ、一番、僕が聞きたいよぉぉ……」

 「ミト!マナト!ステージ動いてるぜ!」


 ラクトが2人に言った。


 マナトが目線を戻したときには、フィオナが跳躍していた。


 ――ヒュゥゥ!!


 飛び込みながら刺突を放つ。


 ――サッ!


 ナジームはサイドステップを踏んで、レイピアごと突っ込んできたフィオナを回避した。


 「スキあ……!」

 「まだよ!!」

 「なに!?」


 フィオナが空中でグィィ!と身体を傾けた。


 そして着地ざまレイピアを素早く引いてからの、ナジームに向けて上から一閃。


 ――ガギッッ!


 ナジームのサーベルが少し遅れた。


 ――ヒュヒュヒュ……!!


 フィオナの連続突き。


 ……負けない、この戦い、負ける訳にはいかないのよ……!


 ウテナに、無理をしてほしくない……その思いが、フィオナを刈り立てていた。


 医療棟での治療を終えた後、巨木エリアにある特別宿に、ウテナはかくまわれていた。


 サロン対抗戦の始まる前、フィオナはその特別宿に、ウテナを迎えにいった。


 フェンの指示どおり、ウテナにマントを纏わせ、外に出た。


 《……》


 ウテナの動きが少しぎこちなかった。なにかに、怯えているような気がした。


 大丈夫……?と、問いかけた。


 《えへへ、お昼前に外に出るの、久しぶりだったので……大丈夫です!行きましょう、フィオナさん》


 無理をしている……この時点で、すでにフィオナは感じていた。


 それでも、ウテナは意気揚々と振る舞って、馬車に乗った。


 《……それで、ラクトが乗ってきたんです》


 馬車での移動中……ウテナは、フィオナに不思議な話を聞かせてくれた。


 夜の砂漠を走る馬車。ラクトの乗車。ヤスリブボタルの群れ光るオアシスでの釣り。光の先の花畑、小川、大きなピンクの花びらを降らす巨木、その先にあった、6つの、生命の扉……。


 《ラクトと一緒に、生命の扉を開けたとき、そこには、混沌ばかりが広がっていました……でも、そんな時、ヤスリブボタルのような光が……》


 うん、うん……。


 フィオナは口を挟まずに、ずっと、ウテナの話を聞いていた。


 《あの光は、ルナ、フィオナさん、サロンメンバーのみんなだったって、今になって、思うんです……》


 やがて、馬車は巨大テントについた。


 しかし、テントの中に入るのには、時間がかかった。


 《……》


 ウテナの足が震えていた。


 《手、握ってても、いいですか?》


 いいよとウテナの手を握った。


 《……フゥ~》


 ウテナが深呼吸していた。


 《……大丈夫、大丈夫です!》


 2人一緒に、巨大テントの中に入った。

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