316 激闘②/ジン・シェイプオブ・マナト

 「オルハン先輩!!」

 ウテナが叫ぶ。


 「くっそが……!」


 オルハンは大きく横に飛び、ダガーの突き刺しを回避した。受け身をなんとか取って、ジンの次の攻撃に備える。


 と、ジンが立ち止まった。


 そして、顔だけ横に向けると、微笑みながらオルハンに言った。


 「フッ、いま、接近戦を嫌いましたね?」

 「コイツ……!!」


 オルハンの眉間に、憤怒のしわが寄る。


 ――ジジジジ……!!


 その激情に呼応するかのように、ウォーターアックスは唸るような水圧の音を鳴らした。


 「負けねぇ……負けねぇ、負けるか!!!」


 ――ブゥウウン!!


 ジン目掛けて、オルハンは力任せにウォーターアックスを横振りした。


 ――ジジジジ~ジジジ……!!


 まるでムチのように波打ちながら、ウォーターアックスはその波に乗りながら射程を伸ばしてゆく。


 「今度は当たりませんよ」


 ジンが小さく飛ぶ。


 ギリギリのところで、ジンは縄跳びのようにウォーターアックスを回避した。


 「……」


 ――バッ!!


 オルハンが、今度は、縦に大きく振り上げた。ウォーターアックスの軌道が変わる。


 「なに……!」


 ジン……マナトの笑顔が消えた。


 小さく避けてしまったがゆえに、ジンの足のすぐ下から、波打つ水圧の刃が突き上がってくる。


 「う、うまい……!!」


 ウテナは瞬時に理解した。


 ……一瞬、水圧を解いて横向きの勢いを殺して、ちょうどジンの足下の位置にすべりこませたんだ!


 この戦闘センス……ルナを目の前にした時とは思えないほどのしたたかさと、ウテナは思った。


 しかも、ジンを前にして……。


 「くっ!ダガーで……!」


 ジンは体制を倒して、無理やりダガーをウォーターアックスに押し付けた。


 ――ギギィイ!!!!


 刃と刃の激しく擦れる音が鳴り響く。


 「……フッ」


 オルハンが不適な笑みを浮かべた。


 ――ジジジジ……!!


 「!?」


 ジンの背後から、水圧の音。


 ウォーターアックスの先端の刃先が、ものすごい勢いで打ち返し、ジンの背中へ突き刺しにかかった。


 「貫け!!」


 その時、


 ――ヒョイッ。


 ジンはダガーを、自らの背後に放った。


 ――パシッ。


 もう片方の手がキャッチ。


 「なに!?」


 ――ギッ!!


 ジンの背後でダガーとウォーターアックスの刃先が触れた。


 ウォーターアックスの軌道が横へずれる。ジンは軽く、横に吹き飛んだ。


 「う、受け流した……だと!?」


 ――ザザザ……!


 ジンは少し地面を転がりながら受け身を取ると、すぐにオルハンに迫った。


 「お兄さんのこと、少々、侮っていました……!」


 ジンはつぶやき、一瞬でオルハンとの間合いを詰めた。


 ――ヒュヒュヒュヒュ……!


 ジンが前進しながら、ダガーの切っ先を連続で繰り出した。


 「くっ……!」


 ダガーの切っ先に、少しずつ、ウォーターアックスが遅れてきた。


 「やばい、水圧が……!」


 ――バシャシャ!!


 ダガーの切っ先が、オルハンのウォーターアックスを、真っ二つに切り裂いた。


 「く、くそぉおお!!!!」


 ――ドッ!!!


 「……なっ!?」


 ジンが、なぜか、横に飛んでいる。


 そして、オルハンの目の前には、右拳を突き出した、ウテナ。


 「……お前!」


 ウテナの右拳が、ジンの顔面を殴り飛ばしていた。

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