317 激闘③/ジン、化ける条件

 ――ドサッ。


 ジンが地面に落ち、倒れた。


 「い、今のは……?」


 そして、上半身だけ起き上がり、面食らったような表情で、殴られた頬に手をあてながら、顔を上げたマナトの姿が、ウテナの瞳に写った。


 「……フゥ~」


 ウテナは深呼吸すると、突き出した右拳を納めた。


 ……一瞬の隙をついて、一発入れることはできたけど。


 おそらく、ここから先は、今のような不意打ちは通用しないだろう。


 「……」


 ジンはゆっくりと起き上がり、パッパッと、肩掛けと腰巻きについたほこりを払っている。


 「おい!ウテナ!」


 オルハンが怒鳴った。


 「お前、ジャマするんじゃねえよ!」

 「……えっ?」

 「これは、男と男の闘いなんだよ!」

 「はぁ!?」


 変なことを言い出した先輩のオルハンに対して、ウテナは思わず怒鳴り返した。


 「いや、違うでしょ!あれ、マナトさんじゃないから!ジンだから!ジン!!」

 「それでもだ!!」

 「えぇ……」


 ……この人、バカだ。


 「……いや、でも、やられかけてましたよね?さっき」

 「そこに関しては、助かった!」


 ……あっ、そこは素直なんですか、先輩。


 「あはは、なんか、調子狂うなぁ……」


 ウテナは苦笑した。


 「……!」


 気配が、自然とウテナを構えさせた。


 「……あなたのほうが、強かったのですね。驚きです」


 どこからどう見てもマナトの姿の、ジンが言った。顔、声、振る舞いまで、完全に一致している。


 また、ウテナのナックルダスターが直撃した頬は、跡形もなくキレイに直ってしまっていた。


 「おい、俺がまるでよわ……」

 「ジン!ひとつ、聞きたいことがあるの!」


 オルハンが言いかけたが、その上からウテナが声を張って言った。


 「あっ、おい、ウテナ、ちょっ……」

 「なんでしょうか?」

 ジンが返事した。


 「あなたが今、化けている人に、見覚えがある」

 「ちょ、お前ら無視すん……」

 「その元の人に……マナトさんに、あなたは、なにをしたの?」

 「……」


 ウテナの質問を聞くと、オルハンも黙った。


 ……ルナが、気にしていたんだもの。


 ジンがその者の姿に化けているということは、当の本人に、なにかあったのかもしれないと、ルナが心配していた。


 「……フフッ」


 少し沈黙したあと、マナトの姿をしたジンが、笑った。


 「殺して身体を奪ったとか、そういうことでも、考えているんですか?」

 「なんですって……!」

 「安心してください。ジンには、あなた達の中にある、小さな小さな二重らせんの配列を複製させてもらうことで、その人に姿を変える力があるんです。ただ、それだけのことなので」


 ……ええと、どういう意味なの!?


 言ってる意味が分からないと、ウテナは思った。


 「……でもそれって、」


 オルハンが、ウテナに代わって言った。


 「結局、マナトってヤツに、なんかしたんじゃないのか?」

 「はっ!た、たしかにそうよ!!」

 「……」


 オルハンの問いかけに、ジンは黙った。

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