318 激闘④/ジン、化ける条件

 ――プチッ。


 そして、ジンは髪の毛を一本、親指と人指し指でつまんで、引き抜いた。


 「……なんかしたと言うならば、これくらいです」


 ジンが抜いた髪の毛を、ぷらんぷらんと揺らしながら、ウテナとオルハンに言った。


 「えっ?それってどういう……?」

 「血や皮膚片……それこそ、この髪の毛一本があれば、いいんです。この中にも、先に言った二重らせんが、含まれているのですよ。だから、こうして髪の毛を拝借した以外は、特に、なにもしてないんです」


 するとジンは、笑顔になった。


 「だから、元のこの彼は今もどこかで、日々を過ごしているでしょう。……まあ、逆に言えば、当の本人は、化けられていること自体、気づいていないと思いますがね」

 「……」


 ……ジンの言っていることが本当なら。


 とりあえず、マナトは無事ということだろうと、ウテナは思った。


 「……では、私も少し、質問していいですか?」


 するとジンが、ウテナを見た。


 「この者に、だいぶ関心がおありのようですね?」


 ジンは、自分自身……マナトを指差しながら、言った。


 「どうして、関心を?」

 「あたしの友達が、その人の安否を心配していた」

 「ルナさんですね?」

 「!」


 ……そうだった。ルナの前にも、このジンは現れている。


 「なぜ、ルナさんが気にしていたら、あなたが聞くのですか?」

 「なぜって……」

 「あなたはルナさんの、なにを知っているのですか?」

 「……」

 「あなたはなぜ、ルナさんにいつも会いに行くのですか?」

 「……」

 「ルナさんにいつも会っているのは、ルナさんのためですか?それとも、自分の優越感を満足させるためですか?」


 ――バッ!!


 「うぉ!?」


 オルハンの目の前にいた、ウテナが消え入るように動いた。


 ――ヒュッ!!


 鋭く空を裂く音がする。


 一瞬で間を詰めて、ウテナの右拳がジンの顔面向かって放たれたのを、ジンは身体を反らして、ギリギリのところで避けていた。


 「ハァ……ハァ……」


 ウテナの荒い息づかいが聞こえた。顔は青ざめ、赤茶色に輝く瞳の瞳孔が開いていた。


 「あなたは、本当に、ルナさんを大切に思っているのですか?自分の欲求を満たすための道具にしているんじゃないですか?」

 「!!」


 ――ブンッ!!


 ウテナは身体をひねり、そのまま回転して回し蹴りで攻撃。ジンは素早く後退した。


 「国のみんなから称賛されて、気持ちいいですか?」

 「うるさい……」


 ――ヒュッ!!


 「市場でみんなの歓声を聞いて、応えるように手を振って、気持ちいいですか?」

 「うるさい……!」


 ――ブンッ!!


 ジンがなにか言う度、ウテナはジンに向かって攻撃を繰り出した。まるで、ジンの言葉が、反射的にウテナを攻撃させているようだった。


 「みんなから認められて、気持ちいいですか?」

 「うるさい!!」

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